04.
異世界帰りの米蔵さん88才は今日もまた、近所の道をお散歩中…
ではないようです。
今日は米蔵さんのお隣には最愛の人、留子さんがいるのです。
留子さんは御察しのとおり末っ子の甘えん坊、そんな彼女と一緒に今日は近所のお花屋さんへお買い物です。
年金で余ったお金でちょっとこじゃれた花束を…
米蔵さんのそんな愛に満ちた言葉で今日のデートと成ったようです。
なじみのお花屋さん。
普段は仏壇に飾る花しか買ってませんでしたが、今日は少し緊張した様子の米蔵さんが店先にたどり着きました。
さっきから血圧が上がっては状態回復をかけ、その場をしのいでいるようです。
「トメさんに似合う花束をひとつ」
お花屋さんのお姉さんにそう言って1万円札を渡す米蔵さん。
お隣の留子さんはその姿にポッと頬を赤くしています。
「少し待ってくださいね」
お姉さんは二人を微笑ましく思いながら、素敵な花束を作ろうと店の花たちを物色していました。
「おう!お前!」
突然聞こえる大きな声。
米蔵さんはあまりの事に一瞬心臓が止まりかけましたが、そこは元勇者の血が騒ぎ、留子さんを守るように『回復結界』を発動して事無きを得たのです。
米蔵さんは、大声を出したであろう厳つい男が、先ほどのお姉さんに掴みかかっているように見えました。
ぼやけている視界を『視力強化』で補うと、すぐにその不埒な男を取り押さえようと動き出そうとしました。
ですが米蔵さんより早く、すでに留子さんは動いていました。
ツカツカと近づくと、その男の手を持っていた杖でバシンと叩いていたのです。その姿にまた惚れなおしてしまう米蔵さんでした。
「いてーなババー!」
そう言って男が留子さんに標的を変えた時、米蔵さんはやっと動き出します。
留子さんに見惚れてしまった自分を恥じ、すぐに『操り人形』を発動すると、留子さんを操り男の拳を華麗にさけるよう動かしていきます。
拳を躱されたことで転んでしまった男に、『神速』で近づきお得意の『超重力』で押さえつけます。
そのことで少し冷静になった男は、以前ここで作ってもらった花束を、彼女さんに馬鹿にされデートは旨く行かなかったと涙ながらに語るのです。
「男は我慢じゃよ」
米蔵さんは長年の経験からくる深い言葉を投げかけ、男の肩をポンと叩きます。
「じいさん…」
こうしてその男はペコペコと頭を下げて帰って行きました。
「おじいさん、ありがとうございます。あの、お名前は…」
「さーて、名乗る名など…忘れてしまったよ」
「米蔵です。私は留子といいます。お花よろしくお願いしますね」
何時もの通り、名乗らずに終わるところだった米蔵さんも、留子さんのお陰で無事名乗ることができました。
そして出来上がった花束を、留子さんに無言で手渡す米蔵さん。
見つめ合う二人…どうやら今夜は少し暖かくなるようです。
めでたしめでたし。
お久です。
何気に多くのポイントを頂き、感謝の思いで更新してみました。




