8.コボルトの幼女 その1(白いコボルト?)
8.コボルトの幼女(全編)その1 (白いコボルト?)
翌日、ジュンはシロを連れて、冒険者ギルドへ仕事探しに行く。
(今日からFランクだ。
ギルド長曰く、最速でGからFランクへ上がった様で、もちろん仕事を探すときは、
Fランクの依頼ボードから探すことになる。
しかもダンジョンの捜索が解禁のランクだ。よーく、仕事を選ぼう。)
ギルドに入るとまた、エルフの女戦士であるリリルと、コボルトの魔導士ドノバンが揉めていた。
「だから、そんな装備では、いざと言う時の防御ができないと言っているのです。」
「今まで、戦士としてやってきて問題ないのだから、あれこれ言わないでくれる?」
どうやらリリルの防具の装備について、あれはドノバンがアドバイスをしているのかな?
それに対し、リリルは「放っておいて!」と言っているようだ。 多分。
しばらく彼らの様子を他の冒険者と眺める。
リリルとドノバンの言い争いは定番化し、
受付で待たされている冒険者のいい暇つぶしになっている様だ。
ドノバンのほかのパーティーメンバーもよっぽどのことが無い限り、止めない。
しばらくして、ドノバンと目が合った。
「あーーー! そこの君、そのコボルトはどこで仲間になった?」
ドノバンがこちらに飛んでくる。
(え?)
「え? 何ですか?」
ジュンの目の前で、ドノバンは止まり、シロの方を指さす。
「このコボルトだ!」
「え? コボルト?」
「そうだ、コボルト、しかも北方のホワイトコボルトの幼女じゃないか!」
「ホワイトコボルト? 幼女?!」
ジュンは落ち着いて、ドノバンから事情を聴く。
このシロ、耳や毛の生え方から、犬ではなく、コボルトの幼女らしい。
しかも、数が少ない北方の白毛のコボルトであるホワイトコボルト族と言うのだ。
コボルトって、小さい頃は4つ足で歩き、会話も複雑なものができない鳴き声のみと言うことで、
他の種族は犬と見間違えることが多いそうだが、間違いなくホワイトコボルトの幼女らしい。
「どこで、そのホワイトコボルトの幼女と出会ったんだ?
まさか誘拐してきたわけじゃあるまいな?」
「失礼な。昨日の冒険で、けがをした飼い犬とダンジョンに一緒にいた所を保護したんだ。」
「そうか?父親や母親はいなかったのか?」
ジュンは一昨日の南門の兵士の会話を思い出す。
初めてシロの話を聞いたのは、南門の所で、けがをした捜索依頼の犬が追っていたのがシロとのことだった。
(と言うのは町中に最初はいたということか?)
「そこの幼女の親族の者が町中にいて探しているかもしれない。
だとしたら、ホワイトコボルト族の両親だな。
その幼女を見た所、ハーフではなく、父母ともホワイトコボルト族だと思うからな。」
「そういうことだったら、私も協力しよう!」
リリルがこちらに歩いてくる。
「そのかわいい子…じゃなかった、幼女の両親も困っているだろうからな。」
ドノバン曰く、ホワイトコボルト族はこの辺ではめったに見かけないが、
成人も白い美しい毛が生えているらしい。
すぐ見つかるのでは?と思う。
「私、探しに行ってくる!」
リリルは勢いよく外に飛び出す。
ドノバンは、
「ちょっと待った!どこに探しにいくんだ!」
と怒鳴るが、時すでに遅し。
すでにリリルはいない。
ドノバンはまず、各ランクの依頼ボードを見て、冒険者と受付に、
白いコボルトをこの町で見かけなかったか、聞いている。
「こういう時に冷静なのよ、うちのリーダーは。」
そう言い、仲間の女戦士ジュガと司祭ルードも、一緒に依頼ボードを探し始め、
他の冒険者にヒアリングしている。
そんな中、ルードがある冒険者から町の東側の乗合馬車の待合所で、
白いコボルトを見かけたと言う情報を入手する。
早速、ドノバン達とその待合所に行ってみる。
待合所に行く間、いろいろな話を聞いた。
ドノバン達のチーム名は、『ブルーファルコン』という名で、
元々、リリルがメンバーにいて、彼女がある理由でチームを抜けて、
ジュガが新しくチームに入ったらしい。
彼らは元々、王都サザリアを拠点としていたが、
いろいろな町を見たくて、まずはこの町に転籍してきたらしい。
ジュンも自己紹介をしたが、
元々この世界のプログラマーで最終テストをするために、
この世界に入り、トラブルで冒険することになった、
なんて本当のことは言わず、
商家の息子で、家の後を継ぐ前に世界を見ておきたくて、
旅をしている、と言うことにしておいた。
「そうなんですか。私も、道具作成と戦士としての腕を磨きたくて、
度をしているという所は似ているな。」
「そうですね、私も布教活動を通して、最終的に落ち着く赴任先の教会を決めるのが目的です。」
「みんな似た様な、あちこち旅をしたい、と言うのが目的ですね。」
そうこう話をしている内に、目的地の乗合馬車の待合所に到着をした。
中に入ると、長い木製の椅子があり、何人かの人が馬車を待っていると共に、
馬車を運営する商会の、チケットを売る窓口がある。
その一つに、白いコボルトについて聞いてみると、
ちょうど一週間前に、シロを連れた2人のホワイトコボルト族が、ここに到着したそうで、
また、この町から出る便のチケットを買いに現れてないらしい。
「と言うことは、まだ町にいる可能性大ですね。」
「そうだな。」
「こういう時は酒場に情報が集まる。」
ジュンとブルーファルコンの面々は、町中の大きい酒場を歩いて回ってみることにした。




