55. バンパイア化の解析
55. バンパイア化の解析
「宿屋のここと、ここの部屋、そして、この部屋に泊まっている者がバンパイアの様ですね。
どのみち、3部屋共、3階ですね。」
ジュンは、コクピットのコンソールを操作して子爵とリリルに説明をしていた。
ただジュンは、
(キャラクタのバンパイア化って、このプログラムのバグっぽいんだよな。
1体とらえて解析することができれば、良いのだが。)
と考える。
リリルはジュンの様子が気になり、
「どうしたの?ジュン?」
と聞いてくる。
「いや、何でもないよ。」
当然この世界がゲームの世界だなんて、話はできない。
(そうだ、1体倒したふりをして、転送機の中で、構造体配列と人工行動知能を分析することにしよう。)
と、ジュンは心の中で決めた。
「…ねえ、ジュンったら。」
「ごめんごめん、じゃあ行こう。」
ジュンを揺り動かすリリルと、子爵を連れ、
転送機で宿の3階に向かう。
一瞬で、当該のバンパイア化している者の部屋の前に着く。
「ここは、2体だな。」
ジュンは光線銃でドアの鍵穴を焼失させ、部屋に入り、
リリルは寝室で寝ていた夫婦と思われる者にオレンジジュースをかけ、
バンパイアに変出することを確認した上で、
光線銃で倒す。
倒された者の体は、命中したところから消えていく。
「それにしても、寝ている物を一方的に倒すなんて、
罪悪感でいっぱいになるわね。」
とリリルが言う。
「以前にも話した様に、倒していかないと、バンパイア化した者が増えていくんだ。
躊躇はするな。」
と子爵は言う。
2つ隣の部屋の冒険者の3人組にも、同様に確認を行った後、光線銃で倒す。
「次で、最後です。」
ジュンは子爵たちにそう言う。
ジュンたちは同様の方法で、光線銃でドアを壊し、部屋の中に入る。
「ドノバン?!」
リリルが驚いている。
そこには、以前お世話になった、パーティー、ブルーファルコンがいた。
ジュンは、モディフィケータで確認しながら、
「ジュガがバンパイア化している…。」
と言う。
「嘘。」
リリルがつぶやく。
「仲の良いパーティーメンバーがバンパイア化しているとは。
でも、例外は無い。悲しいことだが。」
子爵がリリルにその様に言う。
リリルは一瞬、キッっと、した表情で子爵を見るが、
「…。」
無言になってしまった。
(先程の転送機の中で解析する様に、光線銃で撃つふりをして、
転送しよう。)
リリルはしばらくの間の後、
ジュガのバンパイア化を確認した。
その後、ジュンは光線銃を操作し、
軽いやけど程度に出力を弱くした後、
撃つふりをして、転送機と同調させ、目の前からジュガを消した。
「これで、レオンの町のバンパイア化した者は全て対処できたわけだな。」
リリルは相変わらず無言だった。
3人は転送機で艦に戻った。
艦に戻った後、リリルは寝室の一室に閉じこもり、
子爵はラウンジで、ワインを出して、外の惑星を眺め、一晩中飲み明かす様だった。
ジュンは、子爵も内心、知っている物を無条件に倒していくことは相当つらかったんだろうと、察する。
ジュンは、コクピットに行き、
転送機の記憶媒体の中にいる、ジュガの解析を始めた。
2時間ほど、バンパイア化した部分の構造体配列と、
そこから生じる人工行動知能をシミュレートし、解析していた。
(この部分は、感染元の構造体配列が残っているな。
これを追っていくと、一番最初の原因が特定できる。
問題は、この世界を構成している、プログラムが入っている、
T1221AK区画すべてにアクセスできることなんだが、今は無理の様だ。
バンパイア化した部分の構造体配列復元は…、手動で復元していくか。
3時間ぐらいはかかるが。
後は、光線銃の撃った者の構造体配列をコンピュータに写しておくか。
このバンパイア化した構造体配列だったら、他の者も、復元できるかしれない。)
その後、ジュンは徹夜でジュンのプログラムを復元していった。
やがて朝になり、一同は起きてきた。
とはいっても、惑星の軌道をまわっている艦なので、
明確な太陽の光は無い。
体の中の間隔で、一同バラバラに起きてくる。
ジュンは子爵とリリルを捕まえ、朝食の後、話をすることにした。
「実は、この武器を使って倒したものは、生き返ることができる場合がありまして、
そういう能力を持ているんです。」
「え?」
子爵が思わず、声を上げる。
「生き返る?」
リリルも驚く。
「そうなんです。」
ジュンが言う。
ジュンは、ジュガを復元した後、その復元パターンを解析して、他の者も転送機で、
バンパイア化した部分を置き換え、
復元処置をしたのだった。
ジュンは、コクピットの転送機操作機能で、
復元処置したものを、町の誰もいない屋敷の部屋や宿屋の部屋、ギルドの控室に返していった。
その様子を子爵とリリルが見守っている。
「これで返しましたので、10秒後に意識を取り戻すはずです。」
「ありがとう。なんといっていいか…。」
子爵はそう言って、ジュンを見つめていた。




