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序章

__クリスマスといえば日本のカップル一大イベントである。



クリスマス・イブとクリスマスが近づくと何故か好きでもないのにいつの間にかカップルになってる奴らが増殖したり、バイト先に出現するカップルが増殖するという現象が起きる。



そんな現象が起きる中、心の中で「チッ」と木霊させたのは今時の若者には珍しい田中花子という女。19歳、皮肉にも彼氏ナシ歴=年齢の花子はクリスマスでも当たり前のように自分でもなんで受けたのか分からないバイトで死んだ魚の目をしながらレジ打ちをしていた。






「なんで....なんでこんな私の視界にカップルいるんだよ??なんで??ここドラッグストアぞ??カップルくるとこじゃねぇだろ..........こちらのレジで承りまーす!」






しかも面白おかしいことにドラッグストアのくせして、謎にカップルしか列を成していない。いつもは顔見知りのお婆様方やお爺様方、常連の方くらいしか来ないのに、何故か今日だけはカップルばっかり。



花子が右向けばカップルで仕事してる店員、前向けば会計待ちのカップル複数人が列を成し、左向けば花子に「彼氏いないの?」攻撃してくる店長がカップル特集の雑誌を見ながら花子をガン見している。



ただ辛い。それだけが彼女の感情だった。朝から両親にバイトに行くと伝えれば、彼氏とデートに行けない可哀想な娘とレッテルを貼られ、イブに一緒に遊んだ友達にも彼氏はいつできるんだとか言われるし、ここ2日間最悪な道を歩んでいた。







「チッ....私は1人でいいって言ってんのになんでみんな彼氏彼氏彼氏彼氏言ってくるんだよ....1人の何が悪いんだよ」






花子はそんな思いを抱えながら無駄に並んでいたカップルを捌き終わり、ロッカールームで着替えながら悪態をつきぶっきらぼうに扉を閉める。それで、早く帰ろうと後ろを向いたら一番背後にいてほしくない、花子が最も嫌う人種である店長がいた。



己よりも20センチほど高い店長に見下ろされ、花子は露骨に顔を顰める。正直、花子にとっては自分より身長が高いことと、考えてることが分からない人間である店長は完全に敵だ。うわ、本当にやだ。なんて思っていたら案の定、店長は花子の事情を全く考慮しないマシンガントークが始める。







「あら〜花子ちゃん可哀想にぃ~彼氏いなくてそんな悩んでただなんて、私知らなかったわぁ〜」




「うわ店長、花子ちゃん言わないで下さい不愉快です田中と呼んでください。あと彼氏とかほんと要らな__」




「そうよね!そうよね!花子ちゃんも彼氏欲しいわよね!でもごめんねぇ〜、花子ちゃんに紹介できる男の子いないのよ〜。だって私モテちゃうから!キャ!!」




「......」








舐めてんのか?と言いたいレベルでうざい店長。花子が話そうと口を開いて言葉を出すも、自分のペースで喋ってくるから結局話を遮られた。そうだった。諦めてゲンナリしながら彼女なのか彼なのか迷うような容姿の店長の話を聞いていると、店長は花子に紹介する男はいないとウインクしながら黄色い声を上げる。




どうせこのまま、また店長お得意の自分自慢が始まると思い店長が話し出すのを黙って見つめていれば、店長は何を思ったのかだんまりで恐ろしいことに花子を見つめ返し口角をニヤリと効果音がつくほど上げてみせた。







「まあ花子ちゃんにはしょうがないからぁ〜、これあげる!私これどうせ使わないしぃ〜、花子ちゃんガラガラ好きでしょ!はいはいこれ〜、大事に使ってねぇ〜。いつも一生懸命働いてる花子ちゃんにボーナスぅ〜。じゃっ!私は友達とディナーの約束があるからぁ〜」




「ウチの商店街でやってる福引じゃんか....」




「お礼はいいからぁ、花子ちゃんにとっていいのが当たればいいわねぇ〜」








店長が握らせてきたのは割りかし高額な買い物をしないと貰えない福引券。あと1時間程度で期限が切れる券を確認すると、店長は満面の笑みで颯爽と店を出て行く。「おい、これ絶対自分が引かないからって私にゴミとして押し付けただろ」と花子は小さい福引券をくしゃりと握る。




あの店長、身元から何から色々怪しいなと考えながら、花子は店の戸締まりを済ませ商店街の端でやっている福引のスペースへ向かう。あと30分で締め切るという手前、花子はちゃんと間に合った訳だが、役員らしき人が解散していて1人しかその場所にいないし、福引定番の景品表が片付けられているところを見て明らかに"終わった風"を醸し出していた。



ここまで終わった感を出されるといくら我が道を行く花子でもちょっとやめとこうかな、という気にさせたわけだが、くるりと身体を帰る方向へ華麗に回した後に思考を巡らせ、店長に福引の結果を聞かれたら今度こそ詰むと考え、全力疾走で駆け寄り「福引お願いします!」と声をかける。思ったより声を張り上げてしまったのか、福引の係の人は目を丸くしていた。多分、花子の黒歴史確定。







「はい、福引券1枚確認しました。一回ですね。大きくぐるっと回してください」




「わかりました」






「どうせやるなら面白いもん当てろよ私」と割と切実に念を込めながら、ぐるっと回すと出てきたのは虹色の玉。福引の当たり表にも絶対に確実に載っていないイレギュラーな玉である。







「.....私、運悪すぎじゃね?まさか今日死んだりする日じゃね?」







なんて呟いた。七色の玉なんて人生で一度も見たことがないし、テレビでも見たことない。花子の福引を見守っていた人も花子と玉を交互に見て、花子の知らないところで笑みを浮かべる。ショックで花子が硬直してると、肩をポンポンと叩いてきた福引の人。







「珍しい話ですよ。まさかこんなところで"当たり"を引かれる方がいるなんて....なんか感慨深いですね。これが福引の景品となります」




「ネックレスですか」




「はい。神聖なクリスマスの日ですし、首にかけて眠ればきっと良いことがあるはずです。貴女にとっての"面白いこと"が待っていますよ」




「はあ、あざす。ありがとうございました」






花子にとってはいきなり占い師みたいなこと言い始めたなと思いながら、でもクリスマスだし今日くらいは耳を貸してあげてもいいかなぁ、なんて風呂に入りながら心にもないことを考え、寝る前にネックレスを首から下げ勢いよく眠りについたわけだが、






わけだが、








「ねぇ!貴女すごいわね!!!!まさか勇者の仲間に選ばれるなんて!!!!」




「あん?????」








目が覚めたらよう分からん姉ちゃんに肩を揺さぶられ、頬擦りされながら厨二病みたいなこと言われるとは思っていなかった。




ようし、まず現状把握から始めようか。





まず私の名前はなんなんだ....。と。


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