第9話
「仲良くしてあげてね」
調香師は言うが、生徒二人、殊に女子生徒からは、もはや不快どころではなく、敵意が滲んでいた。
「そいつ、転生者ですか?」
「そうだけど?」
「やっぱり! 私は嫌ですよ! 転生者と一緒に学ぶなんて」
「そうは言っても……勇者候補だよ? 強いよ?」
「だから何なんですか! とにかく、転生者は嫌です!」
「まあまあ、実力を見てからでもいいんじゃない?」
そう言った調香師が連れられた先は、直径にして300mはあろうかという円形闘技場だった。
「戦って、能力を見たら文句ないんじゃない?」
「いや、戦うとか無理……」
「……仕方ないですね。私が共に学ぶに値しないと判断した時は、殺します」
「え?」
「なんてこと言うの! 学友だよ?」
「転生者を学友などと思いたくありません」
仮にこの世界を楽しめと言っているのなら、こんなに鬼畜なことはないだろう。……いや、案外元居た世界の神に該当する存在も、こんなことを思いながらあの平穏を現出していたのかもしれない。
「もういいんじゃないですか? どうやら分かり合えないようですし」
「……は?」
そう語気を強める彼女を見つつ、俺はただ思ったままを口にした。
「確かに俺は転生者です。この世界に来なければ彼女がとやかく思うこともなかった」
そういって俺は身を翻し出口へ向かう。やはり俺の世界には平凡が似合う。たとえそれが、魔法だのが飛び交う異世界であっても。
しかし先ほど視線から外したはずの女は、俺が向かうはずの出口に毅然と立っていた。
「私は転生者が嫌いよ。どこか別の世界からたまたま呼ばれただけで英雄気取りなんて不公平だもの……だけどね」
その直後、女子生徒の纏う空気が変わったように思えた。
「そうやってすぐに諦めるやつは、もっと嫌い!」