第8話
話が第一話に戻るまではしないまでも、俺は魔術学園に連れてこられた。教室に向かう道すがら、調香師はふと語った。
「君はここで生きていくことになる。ま、楽しみたまえ若人よ」
この世界は、楽しむことをやたら推奨してくるようだ。神も言っていたが、雲を掴むように実体のない話だ。
「じゃ、クラスメイトに君のことを話してくるね」
そう言った調香師は教室へと消えた。俺はただ、教室の壁越しに聞こえる声に耳を傾けるしかなかった
「おはよう。今日から新たに仲間が増えるんで、紹介から始めるよ……さすがに静かすぎない? ……じゃ、紹介するね」
そんな漏れ聞こえた声の後……
「じゃ、入ってきて」
と、調香師は言った。
この空気で入るの嫌だなあ。と思った。歓迎されていないことは教室の静けさで分かっていた。俺は崖から身を投げるが如く、教室へと足を踏み入れた。
二人しかいない生徒に、二人とも仏頂面で自己紹介を見られては、紹介もそこそこにするほかなかった。クラスメイトの一人は女で、整った黒髪をポニーテールに纏め、目つきの鋭いところは活発な印象を行けた。服装も、大きめのパーカーをワンピースのように着こなし、下はショートパンツだった。大胆に太ももが露出していたが、艶めかしい色気は感じられず、これもまた活発な印象を補強しているようだった。
もう一人は男で、女とは対照的に六に髪は整えず、こちらを見ているようで見ていない目つきは、俺に興味がないことをありありと示していた。服装は、制服らしきブレザーとスラックスを無難に着こなしているものの、先ほどまで机に突っ伏していたのか、皺だらけだった。