第4話
気づくとそこは、壁と天井が曖昧になるほど真っ白な空間だった。体に感じる重みがなければ、俺が寝ていることすら分からなかっただろう。
「よく眠れた?」
画用紙に落ちた絵の具のように、ふと少女が現れた。人間でいえば10代後半ほどの彼女は、きらびやかな衣装とそれに負けない美貌が、俺の世界とは違う存在なのだということを雄弁に語っていた。
「ええ、まあ、寝てたんなら熟睡でしょうね」
「そう。よかった。突然ごめんなさいね。私は……まあ、有り体に言って神というやつね」
見かけに加えて、大局を悟ったような、吸い込まれそうな目つきや、試すように発した語り口は、神なのだということに説得力を持たせていた。
「仮に神だったとして、どうして俺の前に?」
「召喚ってやつよ。私の治める世界の誰かが、別の時空から勇者を召喚する儀式を行った。それで貴方が選ばれたってわけよ」
「ありえない。一介の高校生だ」
「説明になってないわ」
「評定平均3.1。クラスメイトとはつかず離れずだ。俺には自信がある。召喚なんて、そんなドラマチックが俺に起こるはずがない」
「よくわからない自信ね……で、これがありえなかったとして、どうしたいの?」
「俺を元の世界に戻す方法があるんじゃないのか?」
「ないわね。あなたの世界に、死んだ人間が生き返った前例があって?」
……悲しいかな、そんな例はない。
「なんで俺なんですか?」
「魔法陣の展開先にいたから」
「あぁ……なるほど。分かりました。行きましょう」
「急に素直になったわね」
「腑に落ちたんで」
「そう。じゃ、ほかに聞きたいことは?」
「別にないです」
「ホントに?」
「魔法がある世界に行くんでしょう? そして、少なくとも地球人を求めて召喚した。そういうことですよね?」
「そうだけど……気にならないの? 魔法使えるか、とか、最近聞くのだと……チートがどうとか、奴隷がどうとか、ハーレムとか」
「俺の人生にドラマはない。それだけの話です」
「……そう。ま、最後にアドバイスね。楽しみなさい。時には楽しみのために、コストを払うのも悪くな
いものよ」
「そうですか。時が来たら考えます」