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第31話
呪文を唱えると、周囲に満ちた魔力のエントロピーが低下し始める。フィルムを巻き戻したように、周囲を包む空気が整然と並んでいく。そして俺は漫然と走り、跳び、全力で逃げた。
ふと目を閉じる。だが流れる魔力が、髪や肌を伝って、見るよりも鮮明に世界を映していた。
背後に見えた閃光。それは徐々に大きくなり、一点目掛けて凄まじいパワーを収束させていった。その行き着く先には騎士……
「がああアアアァァァァァ!!!!」
騎士は自ら発した光によって焼かれていた。それも、全ての光が発された根源の場所た。その圧倒的な力は、鎧もろとも全てを溶かし尽くし、後には幾許か残った鎧の欠片と、溶岩と化した地面だけだった。
終わった。ただそう思った俺は女子生徒を起こしにいく。
「……ありがとう」
彼女は少しバツが悪そうに言った。そんな表情に、心からの感謝を逆説的に感じた俺は、ただ笑みを返すことにした。
「何笑ってんのよ。気持ち悪い」
きっと今笑っている俺も、目の前の彼女くらいにはバツが悪そうな顔をしているだろう。だが俺は間違いなく、幸福を感じていた。




