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第29話

 少女はこれまでの日々を、強くなることに費やしてきた。道場を営む父のもとで、少女でありながら洗練された体捌きで、男であろうとものともせず薙ぎ倒していった。魔術においても己が武術に魔力を乗せることにおいては卓越した才能を誇っていたが、努力を怠ることはしなかった。


 そして少女は今、思い知った。ルール無用の殺し合いが、いかに残酷であったかを。その不条理の前に彼女はへたり込むことしかできなかった。諦めることを悪と断じた少女の心に悪魔が囁きかけるようだった。


 剣の振り下ろされる刹那、飛び込んできた少年の姿は……変わらない無表情だった。


「え? 嫌あアァ!」


 駆け寄らずにはいられなかった。


「ふざけんじゃないわよ! いつもみたいに避けていればよかった! どうして……どうして……」


 そんな言葉も虚しく、彼はこと切れた……はずだった。


 飛び散った血肉が、彼の元へと戻っていく。治癒や再生とも違う、不思議な挙動だった。


「なんだ? まだ何か残していたということか……」


 異変に気づいた騎士がゆっくりと剣を上段に構える。少年諸共切り伏せんとばかりににじり寄る。その一撃には、重力落下だけではない、彼の力もこもった圧倒的な力が、私たちを終わらせる。そんな悲観的なことしか考えられなかった。




 神との会話が終わり、俺は朝起きたかのようにふと覚醒した。眼前には騎士、俺の肩を女子生徒が抱いていた。


「え?」


 情報量の多さにそんな素っ頓狂な言葉が口から紡がれる。そして、俺の体は騎士めがけてすっ飛んでいった。あまりに急なことで、騎士も女子生徒も、なんなら俺も驚いていた。


 吹き飛ばした騎士を睨むように体が前方を向くが、それと同時に俺は光を回避した場所まで一目散に……後ろ向きで走り始めた。


「ん?」


 慌てて体を止めようとするが止まらない。もしかするとと思い魔力を止めると無事に体は止まった。

傷が治り、突き動かされるが如く吹き飛び、後ろ向きにダッシュ。ここで俺は合点がいった。俺の本来の魔法は、自分に関わるエントロピーを低下させる能力であった。


「何をしでかしたかは知らんが、結論は変わらない。貴様を殺す!」

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