第26話
この国の南側は商店が連なり、人々の賑わいで溢れる平和な場所だったが、その賑わいの全てが悲鳴に変わっていた。ゴブリンの他、俺の見立てではあるがオークらしき魔物や、やたら爪が発達した狼めいた獣もいた。
圧倒的な数を前に、俺は薄れた命への危機感を新たに再燃させる他なかった。
「何やってんの? 行くわよ!」
彼女は頼もしすぎる。だが同時に俺も思い立った。確かに恐怖はあるが、俺は俺だ。どうせ死なない。確信にも似た感覚を取り戻し、敵へ向かって猛然と突っ込んだ。
複数の敵が矢継ぎ早に繰り出す攻撃も、俺は器用に避けていた。避ければ避けるほどに、俺の生の感覚が溶け落ちる感覚がするが、それは目下水に流さざるを得なかった。一度に少なくとも3体は襲ってくるのだから仕方ない。
剣での刺突を躱し、相手の動きを利用して顔面に短剣を突き刺す。短剣を抜き取りつつ剣を鹵獲するが次の斬撃が来る。剣を棒高跳びのように地面に突き刺し反動で飛び上がる。自由落下でオークの頭蓋を叩き割り、背後のゴブリンを見やる。今度はオークの斧を使おうとするが、重くて扱えそうにない。力任せに斧をぶん投げ、ゴブリンに迫る。ゴブリンも斧を払いきれなかったのか、剣で受け止めるも少しよろめく。その隙に短剣でゴブリンの顔面を一刺し。思いのほか深く刺さったため、短剣を握り、刺さっているゴブリンを足蹴にしつつ引き抜こうとするが、なかなか抜けない。そこへ背後の部隊が放ったエルフらしき存在の弓が迫る。俺は今一度力を込めて短剣を引き抜き、その勢いで跳躍した。装填の間にダッシュで弓兵に迫る。弓を絞り始める彼らの一人に短剣を投げつけ……ようとした時、弓兵たちの横っ面にゴブリンが飛んできた。その方角には、ガントレットを嵌めた狂戦士、ではなく、女子生徒がいた。
「……何よ?」
「いや……ありがとう」
それ以降はお互いに目もくれず、淡々と敵を倒していった。
回避に専念する中、ふと何処かから並々ならぬ雰囲気を湛えた騎士が現れた。騎士は「退け」とだけ言った。ただそれだけで今まで各所で暴れていた魔物たちは静まり返り、粛々と帰っていった。
「これ以上の犠牲は、お前たち二人で十分だ」
騎士は20代くらいの、見かけの上では優男だった。鎧の内側に屈強な筋肉を隠していることは、佇まいや持った剣から容易に想像できた。昔クラスのサッカー部だった奴によく似ていて、正直好かない。
そんな彼は、なんだかかっこよさげな構えを見せた。その構えには独特の説得力があり、これからの戦いに大きな不安を抱かせた。遠くに見える女子生徒は毅然とした態度で臨んでいたが、心なしか震えているように思われた。
「先に名乗っておこうか。アクセル・アンソニーだ」
爽やかに名乗る彼を見ると、敗北など最初からないかのような圧倒的自信を感じた」
「じゃあ、手始めに」
そういうと、騎士は全身を縮こまらせた。まるで、何か溜めを作っているような……
「凍てつく月の名のもとに、汝に死を!」
これはやばい。まずい。その本能は、俺を騎士に背を向け走らせるには十分だった。その直後、背後で爆発的な光が世界を包んだ。




