第11話
気がつくと俺は真っ白な空間で目が覚めた。だが転生前の何もかもが曖昧な白とは違い、壁も天井も、しっかりと判別がつく白色だった。
判別がついたと同時に、背中に痛みが走った。一点ではない、ところどころからの痛みだった。
「あ、起きた」
そう言ったのは男子生徒だった。言ってはくれても、心から何かを思っている様子は微塵も感じられなかった。
「おはよう。調子は?」
「最悪です」
「そう、まあ、かなり派手に吹っ飛ばされたからね」
後から調香師に聞いた話によると、俺は女子生徒の魔法の作用で攻撃を受けたそうだ。俺の魔法も万能ではなく、俺も想定していない攻撃には対応していないらしい。
「やりすぎだよ」
「すみません」
「でも、二人ともすごかったよ。一年生とは思えないくらい、白熱した戦いだった! だけど……」
というと調香師は俺の方に向き直る。
「君の方は、まだ何かあるような気がする。制御できてない感じだね。なーに、先は長い。ゆっくり探っていこう!」
と励ますように言った。避けたのは俺ではない何かのような気がしていて、この言葉をどう受け止めるべきか悩んだが、調香師の言う通り、先は長いと言うことだろう。調香師は女子生徒に向き直った。
「やりすぎだよ」
「……すみません」
「僕じゃなくて、彼に」
俺を指差した途端、彼女は罰の悪そうな顔をしていた。
「……ごめん」
なんだか新鮮だった。思えば最後に誰かに謝られたのはいつだったろう。ふと思い立つが、人と関わっていないのだから謝られる筋合いもない。きっとこの思いを処理できないのはそのせいだ。だから今思い浮かぶ考えを示すには、いささかの会釈を返すこと以外なかった。
「何よ? 何か不満でもあるわけ?」
「いや、別に……」
「じゃあ何よ?」
「まあまあ、喧嘩はこの辺にしてさ」
仲裁に入る調香師は、すぐさま真面目な表情で俺に向き直った。
「君の能力は、あらゆる攻撃を避ける。という形で発現した。となれば、君には徒手格闘の技術が必須になるだろう」
既に嫌な予感がしていた。この場で徒手格闘に一日の長がある存在となると……
「彼女に教えてもらうといいよ」
「……えぇ!?」
俺の預かり知らぬところで動き出した運命の歯車は、濃霧立ち込める流氷の海へと旅立ったように思われた。




