第10話
縮地というのだろうか。一瞬のうちに、女子生徒は俺の間合いに入った。人間は危険が迫ると時間の流れを遅く感じるというが、まさしくそれが今、俺の体で起こっていた。アニメや映画で見た、バレットタイムというやつだろう。このままでは顔面に思い一撃をくらわされる。迫る来る攻撃を、俺は些か首をひねってよけた。
「へぇ、思ったよりやるのね」
俺は何も言わなかった。確かに言えるのは、今避けたのは俺ではない。もっと大きな力の作用によって避けたという感覚だった。だからそこから殴打のラッシュも、合間に飛んでくる蹴りも、ただ俺ではない何かは淡々と避け続けた。
左側頭部を狙った回し蹴りを避けた刹那、ふと耳に入ったのは男子生徒と調香師の会話だった。
「妙だ」
「どうしたんだい?」
「器用に避けてはいるが、あれほどの体捌きがあって、攻撃に転じる気配がまるでない。挑発しているわけではなさそうだが……」
「おそらく、魔力がある限りは回避が可能……でも、制御はできてなさそうだね。それに……ま、いっか」
合点がいった。これほど会話の方に意識を向けていても回避ができるということも、魔力とやらで便宜的に説明はつく。女子生徒はただ消耗し、徐々に息が上がっているようだった。
「攻め方を変えるしかないようね……」
そういうと女子生徒は両の拳に力を込めた。その瞬間、ただ力がこもったのとは別の気迫を感じた。これが魔法というやつなのかと、俺は仮説を立てることにした。
妙な力の乗った拳を俺が耐えられるとは思えない。俺は淡々と避けた。魔力の前では造作もないことだった……




