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遠い隣人との狂想曲  作者: 五味
序章
4/10

変革の日 2

「各員、この先では間違い無く戦闘が発生する。機体のチェックを怠るな。」


天野の指示に了解と応答が重なる。


「一度情報共有を行って以降、二班からの連絡は未だにない。

 最悪の状況も想定されるため、確認はいつもより入念に。

 また、合流予定地点突入前に全武装のロックを解除。」


そう、同期された通信越しに指示を出しながらも、天野自身自己診断機能を全武装に対して実行。質量兵器の残弾、光学兵器に流用可能なエネルギー残量、それらを設定していく。機体のサイズはあくまで72メートル。人間が生活する必要もあるため、備蓄などたかが知れている。前回の補給から間が空いていることもあり、どうしたところで十分とは言えない。

銀河の最果てとはいえ、破壊するべきものは珪素生命体だけではないのだから。


「小隊長殿。最悪の状態とはつまり、二班が既に全滅しているということでしょうか?」


天野が指示を出してしばらく、震える声で通信が入る。

この声は、確か現宙域での作戦に合わせて配属されたばかりの、新人だったろうかと天野は当たりを付ける。生憎と視界は既に作戦図と兵器関連の情報、機体の自己診断結果で埋まっているため、顔までは見る事が出来ない。

一度も顔を合わせず、お互いコーンに乗ったままでのコミュニケーションしかとっていないため、声だけでは顔がすぐに出てこないが、確か名前はベノワ・パスカルといったか。確認のため、天野は通信が行われた相手の確認だけ一度行い、声をかける。


「ベノワ一等兵。その通りだ。各員も傾注。ただし現在の作業は継続。

 最悪の事態は、全滅だ。だが、最善であろうとも通信が困難な状態である。

 また、これまでは全滅した宙域に珪素生命体含め、撃破されたであろう軍の痕跡が残ることはなかった。

 しかし、今回に関しては、同様であるというのは楽観が過ぎるだろう。」


天野は自分に言い聞かせるように続ける。そう、これまで通りであれば、二班が全滅していれば奴らはいない。だが、今回は分からない。


「これまで通りであれば、奴らは侵入してきていない。二班も襲われていない。

 すなわちこれから向かう先にあるのは、これまで通りではない何かだ。

 我々の目的は、可能であれば二班の班員を救出し、方面軍本隊の到着まで生存することである。」

「増援の到着予測はいつごろでしょうか?」


別の班員から声がかかる。こちらもベノワと同じく新兵の、リチャード・L・ゴアから。


「不明だ。

 状況判明後即座に連絡は行ったが、返答が得られるほどの時間は経過していない。

 最短でも一二時間以降のこととなる。」


通信越しでもわかる、息をのむような音とひりついた空気が流れる。

そう、最短で。最長となれば考えるのも馬鹿々々しい時間が必要になる。先頭に入ってしまえば、長距離での高速通信。機体にも搭載されている、極小の物質のみに用いる事が出来るワープ用の機器。それに記録媒体を入れて情報をやり取りするのだ。位置情報が正確に取得できない状態になってしまえば、無用の長物に成り下がる。

観測拠点に対し、常に位置情報そのものは予定航路も併せて更新を続けているが、今後の状況次第でそれもまた大いに変わる物でしかない。


「他に質問がなければ、各員各種確認作業に専念。

 完了次第順次報告を。」


務めて、平時と同じ調子で喋るよう注意を払いながら天野は告げる。

班員の内、そもそもコーンの操縦経験が2年を超える物の方が少ない。今回の任務で初めて乗る者は半数を超える。そんな部隊だ。だからこそ、過度の緊張を与えぬようにと、天野は気を遣う。意味があるかは分からない。しかしやらないよりはましだろうと。少なくとも、過去、彼は非常事態に慌てふためき、意味のない言葉しか返さない上官に辟易とした記憶があるのだから。


「レディ、再度機体の全走査。各種設定を戦闘態勢に合わせ。完了次第全武装ロック解除。コントロールをこちらに。」

「指令受諾:機体の全走査開始。」


AIからの返答と同時に、新しく空間投影されたモニターに確認項目、それに正常稼働を表す緑の光が並んだものが流れ出す。

その流れを目で追いながら、天野は一度大きく深呼吸をする。

耐衝撃・慣性制御を目的とした溶液に満たされたカプセル内では、効果が認められるものではないかもしれないが。

それでも、呼吸用、薬剤吸引を目的としたマスク、そこから大きく空気を吸い込み、吐き出す。

自身の状態を示すモニター、それは緊張状態を明確に示して変わらないが、重さを感じていた肩、それが少し軽くなったようには感じる。


「走査完了。全項目オールグリーン。当機全設定を戦闘態勢に移行。移行完了。続いて全武装のロックを解除。

 ユーハブコントロール。」


これまでの内部のスピーカー越しから聞こえていたAIの音声が、頭の中で直接響くようなものへ変わる。

併せて脳内に操作用のコンソールが発生する。

脊椎に接続されたケーブル経由で、機体の全てのシステムへのアクセスを行う事を可能とするための物だ。

以降は口頭で何かを言う必要もなく、AIとのやり取り含めすべてこの脳内のコンソール越しに機体の有する機能の全てを使用することができる。

生体脳、そこに直接接続されている機械の補助脳。それがコーンの演算機と接続され、思考能力、演算能力が一気に拡張される。相応に負荷がかかる行為であるため、あくまで戦闘状態でしか許されていない行為ではある。


「アイハブコントロール。元二班へ、こちらの予定進路と到着時間を送信。」

「送信完了。」


AIの応答も簡略化されたものが返ってくる。流石に戦闘時にまで、手間のかかる手続きは行っていられない。思考速度、脳内コンソール経由の指示は、平時に比べて圧倒的な速度となっている。だが、それはあくまで珪素生命体、あの理不尽な挙動を行う敵性生命体に対応するための物だ。流石にその無駄は省いてくれている。


「戦闘班内データリンクを確立。」

「可能範囲外の一〇機を除き完了。未完了機は可能範囲内に入り次第確立予定。」


必要な作業を、順次行っているうちに、同行している機体から作業の完了報告が入ってくる。全員が揃ってでは無く時間差がある。そればかりは経験もあるから仕方がない。ディランが最も早く、他はそれから遅れて、後は誤差程度。

全機の準備完了を確認し、最終確認に移ろうかとしたその時に、新しく連絡が入る。待ち望んでいた相手から。


「二班班長より小隊長へ。

 現在、指定ポイントへ移動中。

 被害は、小破3中破5大破2。

 珪素生命体残存戦力は、大型二〇、中型九、小型七四。

 依然追撃を受けている。」

「各員、聞いたな、予定ポイント到着まで残り二四〇秒。

 相対速度に注意、警戒を厳に。」

「各機了解。」


天野は考える。

圧倒的に劣る戦力ながらも、二班の班員たちはどうにかうまく立ち回ってくれているらしい。

たったの一〇機で、それも新人がほとんどだというのに、脱落者を一人も出さず凌いでいてくれているのだから。

しかし、これからたった六機が向かったところでどうにかなるのだろうか。タイムスタンプを見れば、この連絡にしても15分は前のものだ。以前の連絡から、この連絡までの時間。その間に小破だけではなく、中破も超えて既に大破だ。

引き返してしまったほうが、損害が減るのではないのだろうか。到着した時にはさらに被害は増えている。今の増員は恐らくその補填にしかならない。それどころか、他の機体を守るために、無理を強いる事になる。結果として被害を増やす事だけになるかもしれない。

冷たい引き算を行うべきか。


そこまで考え、頭を振る。


このどこまでも広い、ただただ広い世界で、数少ない手の届く範囲にいる仲間なのだ。

ここで見捨ててしまえば、残る隊員の誰もが、頭の片隅に恐怖を焼き付ける事であろう。

助けようと動くことに意味はあるはずだ。

結果として誰かを切り捨てることになったとしても。向かった先が、すでに手遅れであったとしても。


「二班より送られてきた行動データを共有。予想合流点を再計算。宙域図の更新完了。

 予定ポイントとの誤差約17.5AU。

 合流予定時間の誤差2秒以内。」

「予定の変更は無し。各員、珪素生命体を射程にとらえ次第、攻撃開始。

 くれぐれも友軍への誤射を行わないよう。」


さて、あとはいかに犠牲なく逃げ切るか。

それに注力しよう。

返ってくる応答を聞きながら、犠牲0で終わることを天野は祈った。

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