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とある英雄の出立前

サブタイトルの英雄の読み方はヴァーテックスでお願いします。

「待ってぇ」


 妹の必死な呼び止めに足を止めて振り返る。

 膝に手を当てて、前屈姿勢で息を荒げている、十歳になったばかりの妹がいた。


「マリ、何の用?」


 時間に余裕はあるが、のんびりとしてはいられない。

 だが、流石に家から全力で追いかけてきたのであろう妹の回復を待てない程、私も厳しくはなかった。


 やがて、そこそこに息を整えた妹は、母さん譲りの亜麻色の髪を汗で額に張りつけながら顔を上げた


「お姉ちゃん、これ、渡したくて」


 そう言って彼女が差し出したのは、大人の私の、掌に収まる大きさの、巾着袋だった。

 手に取って、中身を開けて確認したら、木片が入っていた。


「これは、世界樹の欠片?」

「うんっ、巫女様がお姉ちゃんのためならいいよって、くれたの!」


 疲労の色が滲み出ている顔で、妹は私の手を取った。


「ねぇお姉ちゃん、絶対に帰ってきてね。約束だよ!」

「約束は、できない」


 嘘でも、ここは約束すると言う場面なのだろうが、私にはそれができなかった。妹はとても繊細だ。私が約束を破って帰って来られなかった時、相当引きずるに違いない。

 いや、約束をしていなくても、同じことか。結果は、あまり変わらないか。


「私は、これから戦いに行く。戦場に絶対はない」

「で、でも!」

「それに、今回の戦場は、次元の狭間だとか、宇宙の裏側だとか、そう言う、訳の分からない場所なんだ。仮に勝ったとしても、帰って来られないかもしれない」

「どうしてそんなこと言うの?」


 妹は叫んで俯いた。昼下がりの地面の上に、幾つもの水滴が落ちていく。


「世界樹のお守りがあれば……大丈夫だもん……お姉ちゃんを守ってくれるもん」


 私の手の中のお守りの中の欠片の大本である世界樹は確かに偉大だ。

 世界の樹と呼ばれているだけあって、この世界で一番長く生きている生物と言っても過言ではない。そして、彼女には意志がある。

 世界樹の見守る世界で、私たちは生きている。

 この世界では、世界樹は彼女に見初められた少女たちだけがその幹に触れる事を許される。これは、かつて好き放題してしまった、人族の過ちを繰り返さないようにするためだと、伝承には語られている。


 世界樹の葉を傷に当てれば、たちまちに癒える。煎じて飲めば、弱り切っていた臓腑も回復する。

 樹皮の欠片を持っていれば、強力な魔除けになる。空から飛来してきた魔物どもを近寄らせない。

 その樹液を舌先にでも舐めれば、どんな渇きも潤う。

 そしてその果実を口にすれば、叡智を得ることができる。但し、実を付けるのは、世界樹の意志による。


 彼女は、私たちにとっての女神であった。

 そんな女神がくれた最高の贈り物は、この世界では通じても、他の世界では通じない可能性が高い。

 まして、宇宙の裏側や、別次元だとか、この世界との繋がりが断たれた場所で、果たしてどれほど効果が出るものか。


 先の討伐隊がお守りを持っていないとは考えられない。全滅したということは、機能しなかったか、あるいは機能してもそれを上回る強い力を持った輩がいる、ということだろう。


 私は自ら志願して防衛職に就いた。

 愛する家族を、魔物どもから守るために。

 だから、いつ死んでも仕方がないと割り切っている。妹には話していない。


 私は、妹を悲しませたくはないが、嘘もつきたくない。

 どうやって誤魔化せばいいのかが、わからない。

 私は結局のところ、沈黙するか、真実を伝えることしかできなかった。


 そして、私は真実を伝える選択をしている。


「マリ、世界樹は確かに偉大だ。このお守りも、凄いものだ。感謝しているよ」

「なら、どうして」

「世界樹のご加護は、恐らく効くだろうが、相手が相手だ。油断はできない」


 私の言葉に妹は言葉を詰まらせていたが、やがて、嗚咽を漏らしながら、また口を開いた。


「ねぇ、皆が言う敵って何? 魔物じゃないの? わかんないよ」

「魔物たちの親玉だ」


 ようやく最近になってわかった、魔物たちの生みの親は、月に居た。

 月に向かった五年前の討伐隊が出会った、巨大な螺旋ひも状の何かが、魔物を生み出していた。

 螺旋紐の魔物は、世界樹の加護を受けた討伐隊と、同行した二人の巫女によって討伐された。だが、巫女二人を残して討伐隊は全滅。巫女も一人が討伐隊の面々を庇った際に受けた傷が原因で、月にて命を散らせた。

 残された巫女は、世界樹のお守りを使って地上に戻ってきたが、その後、世界樹の洞の中に姿を消してしまった。


 親玉は倒されたが、魔物はまだ世界にはびこっていた。


 それを倒しながら徐々に世界が安定しく日が近いと皆が元気を取り戻してきた頃。

 防衛隊は新たな情報と驚くべき同志を得た。

 極秘裏に今も接触している同志たちは、凄まじい力を持っており、情報と力の一部を我々に分けてくれた。


 おかげで、月に眠っていた螺旋紐の魔物を、今度こそ討伐できた。

 討ったのは、私だ。

 ひと月前に、世界樹の洞の中で眠っていた巫女を起こして連れ出し、死亡したと報告されていた巫女が命をかけて封印した魔物の親玉を、彼女と共に倒した。


 だが、部隊は私と巫女と、何人かの仲間と同志たちを残して壊滅してしまった。

 同志たちの力がなければ、勝つことは決してできなかったであろう、熾烈な戦いだった。


 全長が、雪を纏う山ほどの高さと、広がる峰ほどに横幅のある螺旋絡む紐の姿から想像もできない、恐ろしい化け物だった。

 もしも、邪悪な神々がいるのであれば、あのような化け物の事を言うに違いない。


 そう思っていた。

 そして、それは当たってしまっていた。


「魔物たちの親玉は、恐ろしい敵だ」

「でも、そいつはお姉ちゃんと巫女様が倒したんじゃなかったの?」

「確かに、倒した。だが、あの空の向こうには、まだ恐ろしい敵がいるんだ」


 螺旋紐の化け物の姿を見た時、私は自分でもどうしようもないほどに、気が変になりそうで仕方がなかった。それでもどうにか寸でのところで止まったが、仲間たちの多くは引きつった笑いを浮かべたり、座り込んでしまったり、中にはショックで死にかけた者もいた。


 その時のように、同志たちからもたらされた螺旋紐の化け物の真実は、私を狂気の世界へと誘った。

 どうにか、私も仲間たちもこれに耐えることができた。だが、精神に入った傷は相当深いものだった。


 その真実だけは、防衛隊以外の者に伝える気はない。

 妹に伝えるなど、論外であった。


「だから、私たちはそいつらを倒してくる。化け物の親玉と同じような奴らが、もうこの世界に災いをまき散らさないように」


 他にどう伝えればいいかわからず、妹の頭に手を置いた。


「上手く行けば、帰ってくる。それだけだ」


 酷い姉だと、自分でも思う。

 踵を返して歩き出す。最悪な別れ方になってしまったが、仕方がない。

 そう思っていたが、


「毎日、巫女様と一緒にお祈りしてるから!」


 強い声に、思わず振り返ると、くしゃくしゃの泣き顔の妹が、強い眼差しを向けて来ていた。


 その姿を見て、私は何となく、ああ、この子は大丈夫だ、と感じた。

 私が帰ってこなかった時でも、この子は自分の足で前に進んで行ける。


 心残りが、消えた。


 私は手を挙げて、指で幸運のサインを作って返し、今度こそ、振り返らずに歩き出した。


 それから、同志たちが用意した空港に停泊している巨大な船へと乗り込み、世界の外側である宇宙へと飛び出した。

 そこから、さらにいくつも世界を超え、私は、同志たちが仲間と呼ぶ、全く異なる世界の者たちとも出会った。


 多種多様な出で立ちに言語、思想、力を持つ彼らだったが、その願いは全く同じものだった。


 そして、ついにその時が来た。

 螺旋紐の化け物を倒した力である鉄の巨人へと乗り込んだ私は、仲間や同志たちと共に、化け物たちへと突っ込んで行った。


ヴァーテックス・アルマ

 星海の邪神に対抗するために造り出された人型決戦兵器ヴァーテックスの一体で、世界樹の守護戦士アルマが搭乗する。巨大騎士たちのデータとモデルを手本にして製造されているが、元の機体である巨大騎士(アルナンナ・シリーズ)たちには届いていない。それでも頑強かつ屈強な装甲とフレームは、同じく近接格闘に優れているボルナイトと肩を並べ、攻撃力も物理特化した機体たちの中でも中の上。

 しかし、アルマが最初に乗った時はコアユニットのみでの戦闘であったため、上記のような能力には届いていなかった。次元連合合流時に大型ユニットと合体することで、ヴァーテックスとして真に力を振るうことができる。

 アルマたち世界樹の守護戦士たちは、世界樹からその樹皮や枝葉を授けられており、非常に強力な破邪の力を有し、それを自在に操ることができる。また、ヴァーテックスにその力を付与し、通常格闘戦ではダメージを与えるどころか触れることさえ不可能な星海の邪神たちに触れ、攻撃を通すことができる。但し、それができるのは相手が弱体化している時に限り、本来の力を1パーセント以上取り戻した相手には真のヴァーテックスでも下級の上までしか対応できない。


全高:50.2m→20m(コアユニット単機時)

重量:40,000t(フル装備で42,000t)→約100t(フル装備時+50t)

武装:

・超次元低温レーザー:他次元にあるとされる極低温のさらにその先、摂氏マイナス5億度の超超超低温の破壊光線を全身の装甲の発射板から発射する。地球を含めた極低温しかない世界では、ヴァーテックスと光線の通り道、着地点の次元が崩壊するが、その崩壊するほどのエネルギーをヴァーテックスの装甲やフレームが吸収するので、次元崩壊などの事態に陥らない。

・機関排熱利用型超高温兵器・プロミネンスブラスト:胸部、背部、前腕部、脚部から発射できる黄金の超高熱光線。

・局所重力発生兵器・グラビティフォース:指定した座標の半径十キロ圏内に超重力を発生させる。

・ブラックホール・パニッシュ:指定した座標に疑似的なブラックホールを発生させ、相手を超重力で封殺する。

・エレクトリック・ブラスター:前腕部と腹部に搭載された荷電粒子砲。

・対異次元生命体討滅光剣兵器・アマノハバキリ:邪神(クトルゥフ系生命体/神話生物/神性含む)超特効。


武装(コアユニット時):

・専用太刀:(かんなぎ)

・専用小太刀:詠雫エッダ

・専用脇差:三日月

・専用アサルトライフル

・ハンディキャノン

・極低温レーザー:アルマが無理を言って増設してもらった兵装。超次元低温レーザーに比べて威力は圧倒的に劣るが、大体の世界で安定して扱うことができ、さらに眷属クラスなら通じることも多い。出力を上げると、極低温よりもさらに下がり、最低温度は摂氏マイナス一億度。ここまで行くと様々なリスクが起きる可能性があるため、滅多なことでは使わない。


スキル:機体能力と武装などを駆使して扱う、いわゆる必殺技に相当する。アルマは確固とした必殺技を持つ、数少ないヴァーテックス操縦者であった。

・アブソリュート・ブラスト:超極低温レーザーを発射せず、機体に纏わせて敵に物理攻撃を仕掛ける。但し、機体がダメージを受けないためには五秒以内に打ち込む必要がある。そもそもこのレーザーの様々な芳しくない影響を防ぐためにレーザーのエネルギーの大半をヴァーテックス自体が吸収してしまうため、吸収しないように調整も行う必要があるなど、使用すること自体に首を傾げる芸当。しかし、この超極低温を纏った拳と蹴りで、アルマは数多くの下級邪神や眷属たちを屠ってきた。使えるのはアルマと彼女の友人の二人のみ。ヴァーテックス以外の機体で、通常の極低温で再現した場合、威力は下がるがそれなりに使用できるので、ヴァーテックス以外の幾つかの無関係な機体が再現していたことでも有名。その際の名称はトリトン・アタック(次元連合に加盟しているいくつかの地球人から、その当時彼らの宇宙で一番冷たいといわれている惑星、そしてその名前の由来となっている神様の加護を授かるようにと付けられた)。

・神斬り:アマノハバキリと世界樹の加護、そしてグラビティフォースを組み合わせて超光速の一撃を放つ、アルマのみが使えるスキル。これにより、神々のデバフを少量でも振り切り、1パーセントの出力にかなり近づいた下級邪神たち、または中級の下の下をこれで倒し、逆転勝利を収めてきた。


・アブソリュート・エッジ:コアユニット時に使用する、世界樹の加護を用いたスキル。いわゆる居合斬りだが、眷属までしか通じず、下級邪神にもダメージを与えるだけで、一撃必殺とはならない。大体の世界の裏ボスはこれでどれだけ復活できる能力を持っていたとしても、一撃で敗北(オーバーキ状態)となる。



アルマ「え? ……私の名前を? いいですが……何だか、恥ずかしいですね。でも、この子が完成すれば、前線での戦いも楽になります。仮でも、拠点があるのとないのとでは大違いですから。そうですね、私も、この子の母親……になるのでしょうか?」









アルマ『貴女のことを 私は忘れない』

オルテガ『アルマ 貴女も貴女の機体(パートナー)も 立派でした』

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