町の案内をしてもらいました②~この町は今のところ親切な方(?)ばかりのようです 〜
「ツクモさん、出前ですよー」
「ミヤコさま!」
登場した長身の女性にジヨッコの背筋がより直角にピシ、と伸びた。
「ぉーう、ミヤちゃん。いつもありがとうなぁ。オトラ姐さんのおはぎがないと3時が終わんねぇんだもんなぁ」
長身の女性が僕の前を通り抜け、僕とツクモの距離でさえ鼻孔をくすぐる甘い香りを纏った包みをツクモに渡す。
待ちきれない表情で、恭しく受け取った包みから竹皮で編まれた蓋つきの箱を取り出し、丁寧に蓋を開けるツクモを彼女は満足そうに眺めていたが、
ふと、気が付いたように僕の方を振り返った。
少し間を置いて。恐る恐る、といった様子で彼女の口が開く。
「あの、えっと、あなた、噂のヒト?」
涼しげな短髪に健康的な印象を与える小麦色の肌。
格好はといえば、七分袖を肩までたくし上げ、おそらく本来は足首まであるであろう綿のパンツをふくらはぎまで折り曲げていた。
そして、彼女の特筆すべき最大の特徴は背丈であった。
少なくとも頭ひとつ分は僕よりも大きいのではないだろうか。
そんな僕との差を埋めるように、彼女は屈んで栗色の瞳で僕を見つめている。
「ええと、昨日からここに来た、タマエ、といいます。これから、ここに厄介になる予定で、えっと、ふつつかなものですが、よろしくお願いします」
なんじゃそらぁ、と目の端でツクモが大仰にずっこけたが見て見ぬ振りを敢行する。
可笑しな挨拶をしてしまったことには気がついているのだ。
だが、思わずこぼれ落ちてしまったのだから仕方がない、ましてや言わなかったことになどできやしない。
胸中を隠すことができず、顔中が熱くなった自分を責めていると、彼女と目があった。
栗色の大きな宝石が揺れて、まつ毛とともにパチ..ンッと瞬く。
「甘いものならオトラ亭!、のミヤコです。はじめまして!」
降り注ぐ太陽の光のような、朗らかな声だった。
マキコが晶瑩玲瓏ならばミヤコは光輝燦然といった印象だろうか。
「ツクモさんのとこにいるのだったら、毎日会えますね!お得意さんだもんね」
「明日からこのフツツカモノの分も増やしてやってくれぃ」
「ツクモ、淑女の前でこれ以上顔が赤くなったらタマエが困るだろう。揶揄うのは二人きりの時にしてくれ」
ニヤニヤしながら軽口を叩くツクモに、真顔でジヨッコが答える。
「ジョッコさん、それ傷口に塩塗ってますぅうう~」
寸劇のような僕等のやり取りを彼女は楽しそうに眺めていたが、ふいに此方に焦点を合わせると笑いかけた。
「大丈夫です!わたしもいっっつもオトラさんに不調法者って言われてますから」
似た者同士ですね、と手を差し出されて、火照った頬がより熱を帯びたのを感じた。
「あ、はは、うれしいな、よろしくデス..」
彼女のそれを握った僕の掌は、離れたあとも、甘ったるい砂糖菓子の香りがした。
「まあ腰が落ち着いたら来てくれや。ウチもまだ準備段階だぃ。俺がお前に求めるとすりゃぁ、、、まずは町の奴らと親しくなることあたりからだろなぁ」
異種族ってだけで毛嫌いしてるヤツらもいるからなぁ、
言い辛そうに言葉を切って、ツクモは気まずそうに僕を見た。
「それとぁ…あ、ぁと、ぉ俺の事はツクモ兄貴とでも呼んでくれていいんだぜぃ」
「ツクモ・・・」
「ツクモさんは(兄弟で)一番しただから、お兄さん扱いされることに憧れてるんだよねー」
呆れた目を向けるジヨッコの隣で、クスクス笑いながらミヤコが教えてくれた。
気まずそうな感じは照れていただけだったらしい。
ツクモさんとは仲良くなりたいなと思っていた僕はそっと胸をなでおろした。
いままで使ったことのない敬称で呼ぶのはいささか違和感があるけれど、
時間をかけて歩みよっていければ良いなと、思った。
前回から間が空きましたが...
先住人の独り言 その①に出てきたミヤコさんの登場です。
書く時のテンションで話によって文体が違うこと多々ありです...申し訳ない。