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町を案内してもらいました①〜就職先が本決まりです!ヤッタ〜!!~

真希子と邂逅した途中から記憶が曖昧だったのだが、気が付くと僕は屋敷のエントランスにあるソファーでヨウリに頬をムニムニされながら座っていた。


「タッマエ〜おはよっ!あっおはようと言っても丸一日気絶してたわけじゃないからねっ。お昼ごはんを食べる前に君を町を案内するって役目を姫ちゃんから押し付けられ、、もとい命令(オネガイ)されただけなのさっ」


「あれ?センリは?二人で一人なわけじゃないのか」


「お嬢といい僕とセンリをペア扱いしないで欲しいなあ。あとね、僕は自由に見えるけど結構忙しいんだから、付き合ってあげてることにタマエは感謝するべきだよ」


確かに「はい、これからここで生活してください」と身一つで放り出されたらたまったものじゃない。

素直に感謝することにしよう。


「なんだか新人研修みたいですね」


急に耳元に息がかかるくらいの距離から話しかけられる。


「ジヨッコさぁ~ん」


「慣れてください、タマエ。声を張るのが苦手なものですから」


職業病ですかね、と彼は言ったがどんな役割を彼は担っているのだろう。


彼女(・・)は”お目付役”と言っていたが。


「ジヨッコさんはちゃんとしたお仕事に就いたことがあるんですか?」


「ちゃんとしたお仕事とはどの様なことを指すのでしょうか。(わたくし)、今もちゃんと(・・・・)働くといった経験はありませんから」


「僕も社会に出たことが無いのでなんとも言えないですけど…ジヨッコさんは比較的ちゃんとしてる感じがして。ここは僕が想像していた感じとは違うってことは感じてます」




僕が気を失った(一番気になっている)ことなど触れることなく、ジヨッコたちが向かった(案内してくれた)のは、長屋から歩いてすぐの煉瓦(れんが)造りの二階建てのアパートだった。


そこが目に入った瞬間、ヨウリが慌てた表情をして(ヤバッ、と)ジヨッコの後ろに隠れた。


「聞いてないよ!ジョウ!!」


「ここがタマエに一番合う気がするのです。私の勘は良く当たりますから」


ヨウリへと囁くように言った声が微かに僕の耳に聞こえてくる。


「じゃあ僕は一旦退散するよ。タマエ、後でね!」


ヨウリの声が僕の耳に届く頃には、彼の姿はもう消えていた。


「元々頭数には(役に立つとは)入って(思って)いませんから」


ヨウリのことは気にするなとジヨッコに促されるまま、擦りガラスの引き戸を開ける。


年代を感じる外見に負けず劣らずの内観だった。剥き出しの煉瓦に木製の棚が所狭しと並び、隙間という隙間に紙束や本がこれでもかという程詰め込まれていた。


その一方で(すみ)には蜘蛛の巣や埃ひとつなく、物ひとつ転がっていない板張りの床は心無しか艶やかに見える。古そう(乱雑)に見える割には手入れが行き届いているようだ。


「新人さんだろぅ。話は聞いてるぜぃ?」


ジヨッコと同年代くらいだろうか、語尾が変わった話し方をする、大きな三角帽を深く被った鉤鼻の男は僕を見上げながら、帽子からはみ出ているうっそうとした(もしゃもしゃ)髪の毛を弄んだ。


「久しぶりだねツクモ」


「しばらく見ないからまぁた酷ぇ土地に送られたかぁと、天手古舞な(てんぱってる)おめぇの姿ァ想像して、酒の肴にしていたぜぃ」


「はは、流石の君等(・・)にも今回の件まで手が廻らなかったようだね。詳しいことはおいおい肴にしてもらうとして本題に入ろう」


ジヨッコが手のひらを僕の方へ向けた。


「彼の名は___」


「ツぉい、ちょいちょい待ち。ジョウよぅ、俺に説明は不要って何回言わせる気だぃ?タマエさんだろ。外から来た異端児。来て一日で姫サンの御寵愛を手に入れた少年(ラッキーボーイ)?」


ジヨッコの話を手で制して彼は、得意気に続きを買って出た。


ただ僕が此処に来てからのことを多大に勘違いしているようなので是非とも(何がなんでも)訂正しておかなくてはならない。


「ちょうあいって…全くもってそれほどではなくて。移住者としては及第点で合格したって感じだと思うんですが」


「人間にしては謙虚だねぃ。俺はツクモ。漢字で“九十九“、と書いてツ.ク.モ、だ」


「“9(きゅうじ)9(ゅきゅう)”ですか。珍しい名前ですね」


「98人の兄貴と姉貴が色んな所(各地)お役立ち中(情報収集)だぃ。これから会うこともあるだろうが、大体が俺とそっくりだから見間違えるなよぅ。俺はここでシンブンってヤツを始めたんだ。この町といえば、瓦版屋しか無かった(前時代的だ)からなぁ。ちいとばかし知名度はねえが、歴史的瞬間に立ち会える名誉は保障するぜぃ」


新聞といえば大学の学食に何種類か置いてあったな、と思い出す。


アパートの方にも勧誘が来たことがあるが、父が外の人から貰ってきた野菜を包んでいるものにそんな価値があると知って驚いたものだ。


「僕の仕事は配達員ってやつですね?」


「それは兄弟たちがやることさぁ。お前(余所者)の視点でこの町のことを記事にしてくれたら面白れぃと思んだよなぁ」


「記事、ですか」


自慢ではないが、纏まった長い文章を書くのはこの間やっと終わった卒業論文が初めてだった。僕に適任とは思えない(務められる自信は無い)が。


「肩肘を張ることはないのですよ、タマエ」


ジヨッコが僕の左肩に優しく手を置いてくれて、心が落ち着く気がした。


そして何故かツクモも僕の右肩(反対側の肩)に手を乗せていた。。


「俺はタマエが気に入ったぜぃ。ジョウ、ほんとに貰っていいかぃ?」


「それは彼自身が決めることです。タマエ、決定権はあなたにあります」


「…それって拒否したら、身包み剥ぎ取られて記憶を消したのち追放(道路に放置)ってオチがついてる、とかないですよね?」


「一応選択肢はいくつかあります。全て駄目だった場合はその時考える、とおじょうがおっしゃっていましたよ」


<考える=追放>という等式が脳裏に浮かんだが、物理的に(思いきり)振って消しておいた。


他の仕事もどんなものか気になるところではあったが、ジヨッコが『僕に一番合うだろう場所』としてここまで案内してくれたのだ。他を回るのは無駄足のような気がした。


「ジヨッコさんがはじめに僕を連れて来てくれたってことは、ここがジヨッコさんの一押しってことですよね。やってみます」


僕の言葉にジヨッコは嬉しそうに目を細めて頷いた。


「だそうですツクモ。こいつに貴方を預けるのは甚だ不本意ですが、私はここが一番タマエにあってると思います」


「ジョウは俺のこと気に入ってンかんな。ま、俺も俺が超超おすすめだぜぃ」


「タマエ、支障があっ(彼に酷い扱いを受け)たらいつでも言ってください、すぐに私が対処します」


「酷ぇ言い方ぁしやがるぜぃ」


「まぁ、彼は外のことにも精通しています。あなた方の生き方や行動にも理解があります。間違っても貴方のことを誹謗したり中傷したりすることはないでしょう」


二人の仲の良い(ツーカーな)遣り取りを少し羨ましく眺めていると、入り口のドアがカラカラと軽快な音を立てて開いた。


「ツクモさん、出前ですよー」


幼ささえ感じる、籠もった高めの声が響き渡る。


引き戸()の向こうには、これまた大きな、僕よりも頭一つ…よりもう少し背の高い、大柄の女性が立っていた。



ツクモさんの沢山の兄弟は世界各地で真希子さまや様々なモノのために働いているようです。

姿形は似ている個体もあれば、全く似ていない個体もあったり、だとか。。

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