新しい仲間について 〜先住人のひとり言 その① 「創成の住人」〜
「京さん、近く新しい住人が越してくるみたいですよ」
掛けられた声に、軒先で袂雀たちの戯れる姿を眺めていた妙齢の女性が振り返った。
「オトラオバさん。なにそれ、聞いて無い!」
「しかも異都の新入りって、新聞に載ってましたよ。みんなその話題で持ちきり」
「住人が増えるなんて私以来だから、なん年振り?すっっごく久しぶりなんじゃ無い?」
「むかーし昔は真希子様に心酔した外からの同族がちらほら移住してきましたけどね。ほんと何時ぶりかしら」
「まぁこれで晴れて町の新参者から初心者証の先輩に昇格だと思うと私としては感慨深ーいのです」
「おとら小母」と呼ばれた中年の女性からしなやかな所作で差し出しされた湯呑みを「みやこ」と呼ばれた女性が受け取る。
「私は賛同できかねますけどねえ。貴女が新参者って言ったら大半がこの町に住んでられないわよ」
「昔の記憶が無いんだもん。みんなが私のことを知ってても、それは私の知ってる私ではないもの」
「もう何もしなくても良いの、貴女がいてくれるだけで良いから」
私が"わたし"として自覚した時に目の前に居た女性がくれた言葉だ。
彼女は両の掌で優しく私の手を包み込み、じっと見つめていた。
その深く優しい吸い込まれるような瞳から、
幾重にも淡墨を重ねたような隈の上に乗っテイル淡緑色の瞳から大小様々なまぁるい珠が次々と
落ちていく。
落ちた水珠はカキ..ンと音を立てて床の上を跳ねた。
(きれいな人だなぁ)
未だ大半が白い靄にかかっている気がする頭で見惚れていると、
「お嬢!」「姫さま!」わたわたと様子を見守っていた者たちが彼女の近くへと駆け寄る。
「だいじょうぶよ」
皆を安心させるように手を振って、彼女はしなやかな手つきで自らの瞳から落ちていった珠を拾い集めた。
角度によって五色に変わるそれを手巾に乗せてこちらへ差し出す。
「如意宝珠よ。貴女にふさわしい護りの宝珠。受け取ってくれる?」
他の者たちの目線「からして、とても大切で尊い者なのだろう。
初対面である私なんかがもらって良いのだろうか。
もらったとしてもどうやって保管しておけば良いのか。
考えあぐねてしまい、彼女の手からそれを受け取ることは憚られた。
「繋いで腕輪にするのは如何でしょう」
隣に佇んでいた男性が穏やかな声で進言した。
その言葉に満足した微笑みで彼女が返す。
「ジヨッコにお願いするわ。良いようにして頂戴」
「これで貴女と私はお友達。何か困ったことがあったらなんでも言ってね」
町のみんなも協力するに決まってるから、と言って彼女は笑った。
今の私が大好きなその笑顔で。
「懐かしい、、話ね」
腕輪を触りながら独りごちる。
あれからそれほど長い時間を過ごしてきたわけでは無いが、町の住人もれなく全員とも良好な関係を築けた。(と、京は思っている)
新しく来る人とも仲良くなれればいいなぁ、と。
この町の最古参の一人。京は呑気に考えながら、和菓子屋の軒先に腰掛けておとら小母の淹れてくれた世界一美味しい緑茶をすするのであった。
メインの住人紹介を交えつつお話を進めます。