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ようこそ!〜歓迎されてる?、んですよね??〜

「・・・暗い」


玉枝が目を覚ますとそこは見慣れない天井だった。


築年数がかなり古いのだろう、煙で燻されたような(むら)のある煤竹色(すすたけいろ)の所々に謎の染みが見て取れる。


『 姫サンが選んだ君ならば... 』


ジヨッコの言葉が頭の中に幾度も反芻されていた。


世界が歪む感覚は未だ鮮明に思い出せる。


というかまだ自分の体以外の世界(そとがわ)が波打ってる気分の真っ只中であった。


「まるで二日酔いだ」


酷く痛む側頭部(あたま)を抑えながら、起き上がりたくないと不満を上げる上半身を無理やり動かす。


「ジヨッコさん?ジヨッコさぁーん、、」


あの不思議な眠気はさておき、彼が僕を運んでくれたのだろう。


彼を探して部屋を見回したがどうやら玉枝一人のようだ。


人の気配も感じられない が、彼はそういう次元で生きていない気がする。


部屋の広さは8畳程だろうか。


家具といえば藤の棚が一つ、使い古された木の机にボロボロだが舶来物の(ワイン色の豪華な)椅子。


藍色の分厚いカーテンが掛かった窓際に玉枝の荷物が置かれていた。


惚けた頭で辺りを見回していると、木の擦れる音がして部屋の端から灯りが漏れ出た。


「人間は活動する(おきている)時間なんだろ」


見たことのある二人が窓のカーテンを開けた。


太陽の光が部屋を満たす。


二人は同時に目を細める。やっぱり鏡を見ているみたいだ。


「あの時の双子!」


「「双子じゃなーい」」


「俺はヨウリ」

「わたいはセンリ」


二人はお互いを指差した。


「こいつに変装(変化)している別個体(つきもの)なのだっ」

「この子に変装(化生)している別個体(べつもの)よっ」


何を言っているのかは理解できないが、一般的(ふつう)ではないことは納得できた。


面接の時と全く変わらない二人に、久しぶりに会った友人の様な気持ちになるのは心が不安を感(僕の心)じる体()験の真っ最中(不安定)だからだろうか。


「その節はどうも、、」


「やあ、一番面白くなかった人!」


「私たちを変な目で見たり、いぢわるなことを言わなかった人間(ひと)!」


「あ、やっぱりそうだったんだ、、」


他の志願者は拒絶の色を顔や声に出してしまったのだろう。


昔から僕は事なかれ主義を貫くことにしている。


そのこだわりが人生の節目を左右しようとは。


「マイペースなあんただったら、姫ちゃんのこと受け入れられそうだもんな」


「マキコ様がお待ちかねよ」


マキコサマ、という人が雇い主ということらしい。お目通しといったところか。


早く行くわよ、とばかりセンリが玉枝の手を掴んで布団から引きずり出した。


が、すぐに手を離す。


「?」


人間(あなたたち)の手ってザラザラしてるのにすべすべなのね。なんか不思議。。」


「ずるいぞセンリ!俺にも触らせてよ」


ヨウリの手は玉枝と同じはず(見た目)なのになんだか硬い繊毛を触っている感触だった。


優しいが繊毛にこそばゆく感じたセンリの手とは正反対の感触に。


(そこまで鏡合わせじゃなくても、、)

やり場のない気持ちが湧き出した玉枝であった。


それに掌はセンリと同じだったがとても柔らかくてそれでいて弾力のある、


まるで動物の肉球のような。。


何かに感づいたような瞳でセンリが玉枝を覗き込んだ。


「今にわかるわ」


「ここに来ちゃったら逃げられないよねー」


「物騒なこと言うなぁ。僕は就職しに来ただけなのに」


大分私たちにも慣れてきたじゃない、とセンリが笑った。


「さ、行きましょう」

「よし、行こうぜ!」


両側から二人に手を掴まれて。


玉枝はジヨッコの言う”姫”であり、センリとヨウリの言う”マキコサマ”とやらの元へ連れられるのであった。




ヨウリの漢字は「妖狸」(雄)

センリの漢字は「仙狸」(雌)

センリの”狸”は山猫です。

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