009杖ってどちらに持ちますか
ど、どうしよう……。
あ、わかった! 私は閃いた!
私が失敗して、ビアンカがきっと代わりにやるんだわ。私が増えた事でシナリオにちょっと加えられたのね!
「やってみます」
私は静かに言って杖を持って立ち上がった。
またダールドマル先生が、床をちょんとして花びらを集め、私に手渡す。
今度は私が、皆の前に立った。
「やり方だが、略式の魔法陣を頭に浮かべ、言葉を言うだけだ。まあ、出来なくて仕方がないから」
ダールドマル先生からアドバイスをもらっていざ、チャレンジ!
えーと。略式を思い浮かべて……あれ? これって昨日勝手に思い浮かんだやつみたいの?
でも浮かんだからやってみよう。
私は円を描いた。
「舞って……」
凄い勢いで渦を巻き花びらは天井へと昇って行く。
これは綺麗というより、龍が天に昇る姿みたい……。
って、止めないと!
ピタッと昇るの止めた花びらは、私に降り注ぐ。だいぶ萎れたらしく、ひらひらと舞う感じではないけどね。
「お見事!!」
「凄いよ!」
ダールドマル先生が言うと、リュデロさんが一人で拍手をする。しかも満面の笑み。恥ずかしいから止めてってば!
他の誰も拍手は……あ、ビアンカがしていた。
「君は、左利き?」
そう言いつつアイスハルト殿下は、私に近づいた。
「左利きかと聞いている。昨日も左手で杖を持っていたな」
「え? あ……」
がしっと左手首を捕まえて持ち上げられた!
私は、左手で杖をしっかりと持っているんだけど! 私、右利きだよね? なんで? 前世も右利き。
何故、杖を左手で持っているんだろう。気が付かなかった……。
「あの……。手を離して頂けませんか?」
これは私ではなく、リュデロさんです。しかも、震える声で言っています。
相手がアイスハルト殿下だからなのはわかりますが、震えた声って……。
「あなたには、関係ないだろう」
「アイスハルトさん。彼は、リンさんのお兄さんですよ」
「え……」
えっと呟いたのもリュデロさんです。
まあ普通名字というの? あれが一緒なら家族だと思うよね? 婚約者とは思わない。こっちの世界がどういう風なルールかは知らないけど。
ダールドマル先生は、リュデロさんが私の関係者だと知っていて見学を許していたのね。
「悪かった」
アイスハルト殿下は、私の手を離した。
びっくしりした。でも何故左利きかって聞いたんだろう?
「ビアンカさん。あなたもチャレンジしてみますか?」
「はい」
よかったぁ。ちゃんとシナリオが進んだわ!
ビアンカは、皆の前に立ち、見事花びらを舞わせた!
私も拍手を送る。すると、全員が拍手をしたのだった。
うん。私より完璧だわ!
・‥…─*・‥…─*・‥…─*・‥…─*・‥…─*・‥…─*・‥…─*
結局、授業を終えるまでリュデロさんは見学をしていました。
はぁ。
それにしても何で私、左手に杖を持っていたんだろう。
記憶はないけど、体が覚えているってやつ?
「変なの……」
「変? 杖、変なところあった?」
当たり前だけど、リュデロさんと一緒に帰路についてます。
「杖じゃないよ」
「そう、よかった。そうだ! 卒業したら記念に杖を作ってあげるね!」
「あ、やっぱりこれ、リュデロさんが作ったの?」
うんとリュデロさんは、頷いた。
凄いなぁ。錬金術で杖も作っちゃうんだ。
「あれ? 錬金術するのに杖って必要なの?」
「必要ないよ。似合いそうだから。君にぴったりの作ってあげる!」
そんな理由でですか!
まあ、作ってくれるっていうのなら楽しみにしてますか。
「うん。ありがとう。楽しみにしてるよ」
リュデロさんは、満面の笑みでほほ笑んだ。