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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔法のマッチ売りの魔少女

作者: 叢舎 翰哉

「マッチはいりませんか?」

雪が静かに降り落ちる冬。

冬なのもあり周りは既に陽は落ちてかなり暗い。そんな中、独り少女は街道でマッチを売っている。

しかし皆少女を見ても素通りする。

確かにマッチは寒い冬を耐えるために暖房や料理にも使う。需要はあるのだがその分どこでも手に入る。それも少女が売っているよりも安くだ。なのでここで買うメリットは少しもない。

今のご時世裕福な者とそうではない者とはっきり分かれる。この当たりは裕福ではない者達が住むのが多い。

誰にも見向きもされない少女を哀れんでか1人、質のいい紳士服を纏った男が近寄る。

「マッチはいりませんか?」

「あぁ、じゃあ買おうかな。丁度切れていたんだ。」

男は本当は家にマッチは山ほどあったが別に1つくらい買っても家族には怒られまいと思い買おうとした。

「ありがとうございます。実はですね、このマッチ、魔法のマッチなんです。この4本のマッチは色ごとに怒り、悲しみ、喜び、あと1つは秘密ですが感情などが込められているんですよ。」

4本のマッチは先端が赤、青、黄、白と異なっており更に長さも不均一だった。

「このマッチに火をつけて火が消えるまでに願い事を言うと叶うんですよ。まぁ、デメリットとしてはマッチが燃え尽きるとそのマッチに宿っている物が消えてしまうことくらいです。後、白いマッチは使うのは最後にした方がいいです。」

「中々面白い設定だね。で、このマッチはおいくらかい?」

男は少女の話を笑いながら聞き流した。

「お代は貴方の胸ポケットに入っている黒いマッチ棒で結構です。」

男の胸ポケットには入れた記憶のない黒いマッチ棒が入っていた。少し不思議に思いながらも男はマッチ棒を渡し4本のマッチが入った箱を受け取る。

「お買い上げありがとうございました。では、またのご機会に。」

そう少女は礼儀正しく頭を下げていた。男は家に向かって歩き始めた。

家に着き二人の息子が寝静まった後、食卓で妻にマッチのことを話してみた。

「ふーん、なら貴方何かお願いしてみれば?そうね。」

「一体何を願えばいいんだ。」

「うーん、お金なら当たり外れも無いわ。」

「じゃあやって見るか。」

軽い気持ちで1つ赤色のマッチ棒に火をつける。

「お金が欲しい。」

赤く幻想的な火に願いを言うとだんだんと火は小さくなり消えると同時に1ヶ月遊び歩いても使い切れないくらいの大金が机の上に置かれた。

「このマッチは本物だったのか。」

「貴方、大丈夫?どこか変な感じしない?」

男の妻は魔法のマッチが本物なら感情が消えるのも本当だと思い心配になっていた。

「大金が手に入って喜んでいるから怒りか悲しみかもう一つかだな。」

「貴方、ちょっと待ってて。」

そう言い男の妻は男の部屋に早歩きで向かい1つの破片を持ってきた。

「ごめんなさい。今日お掃除をしていたら落としちゃったの。」

そう言い男の妻が差し出したのは男が大事にしていたワインの瓶の破片だった。

「そ、それは...なんてことだ。あれだけ楽しみにしていたのに...」

男は涙ぐみ膝から崩れ落ちた。

普段の男なら絶対に怒っている場面だが今日は違った。これで男の妻は確信した。このマッチは本物だと。

実はこれは偽物で男が大事にしていたワインではなく安物のワインの瓶の破片である。

しかし男もその妻も喜べなかった。男は感情を一つ失ってしまったのだから。

「貴方、もうこのマッチは使わないで。」

「あぁ、もちろんそうするとも。」

そう誓ったあと二人は寝室へ向かい眠り始めた。

そして数日後、夜中家族4人が寝静まっている頃男の自宅から灼熱の炎が上がった。火の不始末か不審火か分からないが気づいた頃には逃げ場がない程度には炎は広がっていた。不幸中の幸いか家が広く空気が無くなるまでには余裕があった。

しかし脱出も出来ない。こんな時間なので消防も到着に時間がかかるだろう。そして男と妻は一階で寝ていたが子供たちが寝ているのは2階だ。1階の自分たちでも逃げられないのに2階にいる子供たちが逃げれている可能性は低い。

その時、男はマッチのことを思い出した。あの魔法のマッチならばこの家についた炎を消せる。

男は黄色のマッチに火をつけた。

「この家についた炎を消して欲しい。」

不気味に光った黄色の炎が消えると家についた炎が明らかに弱まっていき30秒もしないうちに消えていった。

家族は無事かと1階にいる妻の部屋に行くと妻は少し煙を吸ったようだが命に別状はなかった。

しかし息子達二人は煙を多く吸いしかしかなりの重度の火傷を負ってしまっている。このままでは命も危ない。

男は青色のマッチに火をつけた。隣にいた男の妻は何も言いはしなかったが何か言いたそうだった。

「子供たちを健康にしてくれ。」

せめて1回の願いで今後も得になるようにとこう願った。青色の炎の灯ったマッチは次第に小さくなりそして消えると同時に息子たちは火傷が治りすぅーすぅー、と寝息をついていた。

「貴方、大丈夫?この家の火を消したのも魔法でしょ?そしたら貴方、もう3つも感情を無くしてることよね?」

「大丈夫だ。」

そう男は言うが顔に生気がない。まるで死人のようだ。

火事が起きてから数ヶ月、男はあっという間に痩せていった。色の良かった肌はミイラのように、元気のあった声は掠れた声に、生き生きとしていた目は死んだ魚のようになっていた。

どんな理不尽や非人道的なことがあっても怒らず、どんな幸運や幸せがあっても喜ばず、どんな辛いことや不幸があっても悲しまずそんな風に激変していく男に職場仲間や周りの人は距離を置いていった。

そんな夫を見ていられなかった男の妻はマッチを売っていた少女の所へ向かった。もしかする夫の感情を取り戻すことが出来るかもしれない。また、前のような夫を見ることが出来るかもしれないと淡い希望を持って向かった。

場所は大体しか聞いていなかったなのでそれらしき少女を探すのに手間がかかり見つかったのは陽は落ちてかなり暗くなっていた。

「マッチはいりませんか?」

この少女だ、と男の妻は確信し話しかける。

「ねぇ。魔法のマッチで失った感情はどうすれば戻る?」

微かに残る希望にかけて聞く。

「もしや貴女の家族や友人が魔法のマッチをお使いになられたのですか?」

「えぇ。私の夫が使ったの。で、魔法のマッチで失った感情を取り戻すことが出来るの?」

「出来ますよ。マッチにお願いすればいいですよ。例えば悲しみを無くしてしまったのなら別のマッチで悲しみを戻して欲しいと願えば悲しみは戻ります。」

「本当に!」

「えぇ。ですが...」

男の妻は最後まで少女の説明を聞かずに家へと走り去ってしまった。

残っているのが・・・・・・・白いマッチの・・・・・・時はしては・・・・・いけません・・・・・。」

男の妻は家に着くと夫の部屋の引き出しをあさり白いマッチの入った箱を取り出す。そしてマッチに火をつけ願いを言う。

「夫の感情を全て戻して欲しい。」

白い宝石のような輝かしい光を放っている白い炎は次第に小さくなりそして消えていった。

男の妻は思わず笑がこぼれた。これでまた、前の生活に戻れると思ったからだ。

男の妻は男が帰ってくるまでに沢山の料理を作り部屋を飾り待っていた。

しかし男はその日、帰ってこなかった。

次の日も次の日も、そして数日立ったある朝、男は帰ってきた。ただ、死体となってだ。いや、正確には生きている。

死んでから数日たっているのにまだ肌には温もりがあるし、時々うっすら笑ったり怒ったりと表情を変えている。

ただ、目が覚めないだけ。死んでいるみたいに。

そんな男の姿を見て男の妻は家を飛び出した。向かうはあの少女の所へ。

何時間探してもあの少女は見つからない。そして日が暮れ当たりは既に暗くなった時、後から

「マッチはいりませんか?」

と、周りに呼びかけているのが聞こえてきた。

振り返るとそこにはあの少女が立っていた。男の妻は少女に駆け寄よる。

「あなたは確か先日私のところに来たご婦人ではありませんか。何かございましたか?」

「私にマッチを売って。」

自分が魔法のマッチを使えば夫を元通りに出来るだろうし失う自分の感情も別のマッチで取り戻せる。

「まさか、あなたは夫の感情を取り戻すために白いマッチを使ったのですか?」

「えぇ。」

最後の期待に夢を持ち、話を続ける。

「あなたはそれぞれのマッチに何がこもっているか知っていますか?」

「知らないわ。」

少女は男の妻を呆れた目で見てため息を付いた。

「赤いマッチには怒り、青いマッチには悲しみ、黄色いマッチには喜び、そして白いマッチにはせいが込められています。そのマッチを渡す代わりに私は死がこもったマッチを貰っています。なので白いマッチを使わない限り死なないようにあなたの夫はなったのです。まぁ、要するにあなたの夫を殺したのはあなたです。」

その言葉に男の妻は絶望する。良かれと思って行動したのが逆に男を殺すことになったのだから。

「わ、私にマッチを売っ「無理です。」

男の妻の言葉に被せて少女は言う。

とても冷たく笑い悪魔の囁きのように、

「誰もハッピーエンドなんて望んでないんですよ。」

その言葉に男の妻は泣き崩れ地面にへたり込む。

それを無視して少女はその場を去る。

少女が向かう先は小さなレンガ造りの家。中には金色の目をした黒猫がいた。

「ただいま。」

「あぁ、おかえり。」

少女の言葉にねっとりとした言葉で黒猫は返す。

「中々酷いことをするなぁ。マッチ売りの少女ちゃん。」

「あれ?見てたの?」

「自分の娘みたいな弟子を心配しない師匠はいないよ。」

黒猫はにゃうん、となきながら答える。

「あなたの年からいったら私は曾孫くらいだと思うけど。」

「ははは、確かにそうだね。ん、回収したマッチを置いてきなよ。」

「えぇ。そうするわ。」

少女は家の1室、それは頑丈な造りの扉を開けて中に入る。そこには壁にも天井にもケースに入れなれ保管されている黒いマッチが何百も置いてあった。

「約束は覚えている?」

「もちろんさ。」

少女の質問に対して黒猫は答える。

「「死のこもったマッチを1000本集めること。マッチを手にいれた人が誰も幸せにならないこと。」」

「その約束を果たせれたらノーリスクでの不老不死の魔術を教えてあげるよ。」

黒猫との約束を果たすためまた明日も少女はマッチを売りに行く。

残り集めるマッチは444本。

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