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第0話 跳躍

執筆なんてやったこと無いから無理だと思っていたけど、自分の物語を作りたいという気持ちを抑えきれず、書いてみたものです。

※注意※

第0話の主人公である金髪の少年「ジョージ」は今作品の主人公ではありません。第0話は主人公である黒髪の少年「トワ」がまだ幼かった頃に決行された、本土地質調査をジョージ目線で書き記したものです。

「総員、第二次降下体勢、準備!」


 張り詰めた空気を斬り裂く一声が辺りをこだまし、空気を振動させているのを肌で感じながら、すぐに緊張のために指先の冷えきった手で装備の最終チェックを始める。

 両手の平と甲、同じように足にも着けられたそれをひと通り触って入念に確認する。

 特に気になることはなく、万全の状態だ。といっても不備が無いのは当然と言えば当然だ。昨夜念入りすぎるほど念入りにチェックしたのだから。

 後は独り目を閉じて意識を集中させている隊長に支度完了の報告をすれば準備完了だ。

 しかしそう簡単にはいかない。別に嫌いというわけではないのだが、隊長は大柄で厳格な顔つき、おまけに無愛想というマイナスポイント多めのちょっと近寄り難い人なのだ。だから正直なるべく避けたい・・・・・・・・・が、今日はそんなことは言ってられないので、僕は覚悟を決め、よっこいしょと年不相応の掛け声と共に立ち上がった。

 重たい足を無理矢理前方に運び、”ブツゾウ”みたいな顔つきの隊長の前で止まると、喉を大きく開いて

「たっ隊長・・・・・・! 装備の全チェック、終わりましたっ!」と僕にしては及第点は確実であろうはっきりとした口調で報告した。

 いつもの僕なら「たたたた隊長っ・・・・・・!!」という調子なのだからかなり頑張った方だ。これなら隊長もいつもとは違って、「こいつ頑張ったな」みたいな優しい目で見てくれているはずだ。怖いから相手の目を見てはいないため分からないが。

 僕の必死の報告を聞いた隊長は、「そうか」とだけ言って、瞑想に入った。


 全6班、36人編成の今作戦の中で、僕は、作戦状況の伝達、先遣班への物資の調達を主な任務とするため、”作戦の核”とも呼ばれ、第5班が護衛に就いてくれるという手厚い待遇の第4班に所属していた。

 普通、このような重要任務を任される第4班に僕のようなひよっこが配属されるわけがないのだが、まあ新参者かつ異端者である僕は、熟練隊員の多い、特にこの寡黙な隊長、ゲリックさんの監視下に置かれているわけだ。


”異端者”


 数ヶ月前に自分に放たれた言葉。

 なぜ自分がそう呼ばれているのか、それは分かる。自分の思想が周りと異なっているからだ。少数派の思想は異端だとみなし、迫害する。人間とはそういう生き物だ。だが、なぜ異なってしまうのか、それは分かるようで全く分からない。いつも何か答えが出そうで、出ない。その繰り返し。やはり僕が・・・・・・、

 僕の思考を遮るように上がったニ度目の強い一声に、ハッとして下げていた頭を上げた。


「それではこれより、本土地質調査を開始する!! 人類の未来は我々に託されている!! 各々、心して任務を全うせよ!!」


「おぉーーーーーーー!!」


 広場全体が揺れていると錯覚するほどの叫び声が辺りを蹂躙しているのをビジビシと感じながら、改めて気を引き締める。


「絶対に全てを・・・・・・取り戻してみせる! 奪われた土地も情報も・・・・・・・・・!!」


 自分に言い聞かせるようにそう呟き、顔を上げる。

 雲一つない青空の中に太陽がさんさんと輝き、優しく額を照らし続けている。暖かい・・・・・・。


「ほら、ジョージ、お前の分だ」


 金髪で頬骨の出た先輩隊員から突然注射器が投げられた。

 慌ててそれを受け取り、

「あっありがとうございますっ」

と礼を言ったころには既に背を向けて歩き出していた先輩は、こちらを向かずに


「今使うんじゃねーぞ」

とだけ言い残し、去っていった。


  ”対極寒地特殊調合薬”と書かれたラベルの貼ってあるそれをマジマジと見詰め、それから目線を前に移す。

 自分の前に約10数名の隊員達が自分と同じ、分厚いコートを着用し、フル装備で綺麗な隊列を組み、合図を待っている。多くの隊員が既にゴーグルを着用していたので、急いで頭に掛けておいたそれを目元まで引き下ろす。

 赤と白、二本の旗を持った1人の作業員を先頭に1班から6班までが順番に縦4列で並び、その時を待つ。

 長く鳴り響いていた掛け声や、叫び声もだんだん少なくなり、今、完全に止まった。


 来る。


 僕の予想をしっかり組みとり、先頭の作業員がゆっくりと両手の旗を左右対称に持ち上げていき、バサッと僕の所まではっきりと聞こえるほど力強く振り抜いた。


「行くぞ!!」


 誰かの掛け声を尻目に、全隊員が一斉に駆け出した。周りの隊員と共に僕も駆け出し、そして、


 高度二千二百メートルの高みから飛び降りた。


 一瞬無重力状態になり、眼前に地上の景色が無限に構築されていく・・・・・・が、その全てを認識する前に重力に体を奪われた。

 全隊員がただひたすらに地上を目指して垂直方向に落ちて行く。速度を緩めるパラシュートなどの器具は何も持たずに。

 ふと体を反転させて、自分達が立っていたところを見詰めるが、もう小さくなっていてほとんど見えない。が、代わりに巨大な船底が姿を現した。今の我々人類の母なる大地であり、その大きさ故に全貌を見ることは到底不可能である、永久持続型磁力船「マリア」は僕達を見守るかのようにその場に佇んでいた。


 体を元の向きに戻し、改めて地上に視線を向け直す。体感速度は800キロを有に超えているだろう。だが、恐怖は感じない。


 僕たちにはこのまま落下しても大丈夫な理由が一つだけあるからだ。


 あまりのスピードに音は完全にシャットダウンされ、ゴーグルを通り過ぎていく強風も信じられないほど強く、一歩間違えたら首をもってかれるだろう。

 それでも直立姿勢は崩さない。空気抵抗が極力小さくなる体勢を維持し続ける。

 僕はゆっくりと右手を動かし、左肩付近まで移動させた。手中には”対極寒地特殊調合薬”のラベルが付けられた注射器。


 僕が何者なのかを知るために・・・・・・!


 空いた手でコートを掴み、思いきり脱ぎ捨てると、右手をそのまま左肩めがけて振り抜いた。刹那の激痛に耐えながらも、注射器中の全液体を体内に投入する。


 そして、戻るんだ! 故郷へ!!


 固く決心したことをもう1度決心し、叫んだ。


「FMAD(高速移動型磁力増幅装置) 起動!!」


 シュゥゥゥゥと静かな機械音とともに淡いライトエフェクトが両手両足の甲に装着された”それ”から発現する。

 特殊手術によって直に埋め込まれたひし形の装置(FMAD)から発生した光は、血管を照らしながら胸に向かって移動し、胸に埋め込まれた球体”コア”に集中する。光の通った”コア”は赤紫色に輝き、FMADからの光の配達が途切れても、光り続ける。

 今となっては見慣れたこの一連の流れを一瞥し、多くの建造物が密集している”地上”を睨む。

 これを使いこなせなければ死ぬ。僕は半年前の教官の言葉を記憶の端から掘り起こしていた。


「FMADは今作戦において必要不可欠な物であり、また同時に諸君らに課せられる訓練内容の中で最も苦戦する物でもあろう。 具体的な操作方法は後々説明していくが、まず一つ、覚悟を決めてくれ」


 教官のいつにも増して真剣な表情を見て、多くの同期の顔が強張る。もちろん僕も例外じゃない。教官は講義を聴いている訓練隊員を教卓から一通り見渡し、一つ頷くと、「では・・・・・・」と言って自分の手に着けていた手袋を外した。

 その場にいた全訓練隊員がハッと息を飲み、とてつもなく重い空気が流れる中、教官は講義を続行した。


「私の手の甲に装着されているFMADは、決して肌の上から装備している訳では無い。 特殊手術によって埋め込んであるものだ。 これはFMADの構造上、必要不可欠な過程であるため、諸君らにもこの手術を受けてもらう。 もしこれを受ける勇気が無い、受けたくない者はこの場から即刻去りたまえ。 手術は明日の朝から順に行う。 両手両足の甲、そしてFMADにおいて最も重要な部位であると言っても過言では無い、”コア”を胸に付ける大手術だ。 各々、一晩じっくりと考るんだな」


 最後に今日の講義は終わりだ、と一言添えてから教官は講義室から足早に退出した。依然として講義室内には重苦しい空気が流れ、恐怖に打ち勝とうと震えている者、やっぱり自分には無理だと諦める者、様々な感情が入り乱れていた。誰もが俯き、決して明るいオーラを身にまとっている者はその場に居なかった。夢に近づける喜びに打ちひしがれていた僕を除いては。

 最終的にこの手術を受けた訓練隊員は講義室にいた者の5分の1にも満たなかった。まあ全訓練隊員が貴族家出身の者であるため当然と言えば当然なのだが。


 たった半年前のことなのに妙に懐かしく感じるのはなぜか。そんなことを思っている内に、巨大な建造物が僕の前に姿を現した。どの建造物も「マリア」にある王都のものとは比べ物にならない程高い。異常に多くの窓にガラスが張り巡らされている。これが訓練中に習った”ビル”というものなのだろう。古代文明の偉大さに圧倒されていた僕は着地のことも忘れ、ビルに映る自分の姿に魅入った。


「何ぼさっとしてんだ! 早く張り付け!!」


 突然上方から怒鳴り声が降ってきた。ハッとして振り向くと、僕の隣にいたはずの先輩隊員はいつの間にか十数メートル上でビルに張り付いていた。気付けば地上までの着地可能距離ほとんどがないくらいまで落ちてきていたのだ。

 僕は急いで右手をビルに向けると、手の先に意識を集中させた。FMADは意思による磁力操作によって、3次元の高速移動を可能にする装置であり、その原動力はコアに溜められた人間の”潜在行動力”からなる。脳から発せられた命令を神経を通してコアへ運び、そこで潜在行動力を体内から生成。血管を通して放出することで、両手両足に装着されたFMADがそれを磁力に変換する。よって、自分の意思によって磁力の増幅、あるいは減少がとても細かく操作可能になるのだ。磁力の限界増幅量は潜在行動力の大きさによって異なるため個人差はあるが、上手く使いこなせれば数十メートルの跳躍も可能になる。また、普段は発揮することの出来ない潜在行動力をコアを使って放出させるため、単純に身体能力も大幅に上がる。よって巨大なビルが無数に存在する地上においてはかなり有効な移動手段になる。


「はっ!!」

 僕の脳から出た命令をコアが組み込み、FMADに送り込む。磁力を放出するのと同時に右手に宿っている淡い光は強く輝く。初めは少し距離があったため右手でビルに近づき、続いて両足から同じように磁力を放出。ビルの滑らかな壁に足を付け、スピードを徐々に緩めながら駆け下りる。ここで急に両足をぴったり壁に張り付くと、慣性の法則によって体がちぎれ、大惨事になるため、磁力は程々に微調整する。といってもこのままだと地面に猛スピードで激突するのは必至なので、すぐに右足を前、そのすぐ後ろに左足を添えて、ブレーキをかける。残された両手で足元に向かって磁力を放出し、体がギリギリ重力に耐えれる程の威力に調整する。少々のむちゃは隊員専用スーツが守ってくれる。スピードが地上数メートル上でようやく止まり、安堵のため息を一つつく。しっかりと両足と右手を壁に付け、体を固定した姿勢のまま


「申し訳ありません! あまりにも大きいものだから、つい見とれてしまいました!」

と頭を掻きながら先輩隊員に謝罪し、自分も先輩隊員の居るビルの屋上まで慎重に移動する。


「ったく、ヒヤヒヤさせんじゃねーよ」


 屋上に到達すると、仁王立ちで眉をひそめてそうボヤいた先輩隊員に改めて謝罪し、初めて見る地上の景色に目を向けた。


「なんかもう・・・・・・異次元の世界ですね・・・・・・」

 

 山のような高さを誇るビルがどこまでもそびえ立ち、古代文明の偉大さを誇張している。さらに遥か下方にある道は紺色の石の様なもので固められており、その上には乗り物だろうか、様々な色、形の物体が散らばっている。

 そんな僕を諌めるように先輩が口を開いた。

「みとれてる場合じゃねーぞ、まずは五班と合流する」

「了解!」

 第五班が着陸予定のビル群はここから南西方向に約120メートル離れた所にあるはずだ。目を凝らして見てみると、第五班のメンバーが次々に着陸している。やはりあそこで正解だったようだ。

「よし、行くぞ!!」

 先輩の掛け声と共に地面を蹴り、全力で走り出す。まずは金属製のフェンスの頂上に飛び乗り、隣のビルの屋上に飛び移る。着地と同時に前転をして衝撃を和らげ、次のビルに向かって走る。次のビルは屋上がここよりも少し高い位置にあるため、まずFMADを使って壁に張り付く。さらに間髪入れずに壁を蹴って登り、屋上の手すりの上に飛び乗る。ここまでで約5秒。我ながら驚異的な速さだ。ここまで全て順調。作戦は好スタートを切った・・・・・・・・・・・・はずだった。

 先輩隊員が先頭になり、そのすぐ後ろをついて行く形で僕達は移動していた。三つ目のビルの屋上に差し掛かった時、なぜか先輩がそこで止まっていた。疑問に思った僕はすぐに先輩に声を掛けた。

「先輩、どうしたんですか? まだ目的地までありますけど・・・・・・」

 応答はなく、先輩はただ一点を微動だにせず見続けている。

 いよいよ訳が分からない僕は先輩の横に歩いて行き、彼が見ている方向に視線を向け・・・・・・硬直した。


 僕達が向かっている第五班の居るビルに何かがしがみついている。いや、”それ”がビルを持っていると言った方が正しいのだろうか。第五班の居るビルをがっしりと掴んだ”それ”は紛れもなく巨大な”人の手”だった。しかし、その持ち主はいない。巨大な”人の手”は手首から下が無く、その指先から断面近くにかけて、数十個に及ぶ、真っ赤な斑点を付けていた。

 微かに聞こえる第五班の隊員の悲鳴がなお一層僕達の足を呪縛し、その場に留める。

「なっ・・・・・・なん・・・・・・だ、あれ・・・・・・・・・!!」

やっと出た言葉もその程度のものだけだ。

恐怖が体を蝕み蹂躙していく。

そんな僕らを嘲笑うかのように”手”はゆっくりと動き出し、ビルを少し力を込めて握った。ビルは轟音を立てながら呆気なく崩壊し、粉塵を巻き起こしながら、完全崩壊した。第五班の隊員達の安否は全く分からない。

 粉塵は爆風と共にここまで到達し辺りは一瞬にして光を失った。大量に発生した粉塵が日光を遮ったのだ。

 未だに体が動かない僕達二人に向かって地響きが近づいてくる。粉塵のせいで見えないが、確かに来ている。頭では理解している。逃げなければならないのは防衛本能が教えてくれている。でも動けない。足はガクガクと震え、遂に腰が抜け、地面にへばりついた。先輩は立ったまま動かない。気絶しているのだ。

 地響きはビル全体を大きく揺らし、そして、止まった。

 自分の目の前に巨大な影が浮かび上がってゆく。全長約八十メートルといったところだろう。ところどころ赤く光る巨影は悠然と僕達の前にそびえ立つと、その一本一本が今僕達が居るビルの半分以上に相当する大きさの”指”をそれぞれめいいっぱい広げてゆく。

”それ”が動きを大きくするに連れ、爆風が巻き起こり、僕の長めの金髪を激しく靡かせ、さらに小さな破片が体に容赦なく襲いかかって来た。地面にへばりつくのがやっとの状況の中、僕は少しずつ口を開き、やっとの思いで言葉を吐き出した。


「こんなの・・・・・・どうしろって言うんだよ・・・・・・・・・」」

 涙が無数にこぼれ落ち、膝を濡らす。全身が異常に震え、歯がガチガチと耳障りな音を立てる。僕はいつの間にか嗚咽を漏らして泣いていたのだ。


「死にたくない・・・・・・死にたくない・・・・・・!!」


  ”奴”は動きを止め、僕をじっくりと見詰めている様だった。赤い斑点から発生している紅色の光は、粉塵に遮られてもなお、その位置を特定出来るほどに輝きを増していた。


「スノ・・・・・・・・・・・・」


 それが僕の最後の言葉だった。

 次の瞬間、数え切れない程の紅光線が四方八方を焼き切り、僕は紅蓮の火焰の中で消滅した。





まず、読んでいただいたき、本当にありがとうございます。

なにしろど素人なので、文の構成が甘かったりとダメダメだったと思いますが、そのような点を指摘して頂けると、大変嬉しいです。


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