満月の夜 約束の夜
満月の夜。遂に約束の日が訪れた。
待ちに待った、お嬢様の御帰り。約束は必ずや・・・。
アンリの待つ屋敷へ向かうガレッド。彼に迫り来る危機とは?
あれから一日が過ぎ、お嬢様と約束した満月の夜が訪れた。
優しく周囲を照らす月は蛍のような儚さを湛えていた。
なんて美しい月だろう。私は思った。
きっと、お嬢様は無事だ。この月夜に殺人など似つかわしくない。
満月の光を吸収したような白馬に乗りながら私は屋敷を後にした。
誰も乗っていない馬車は軽すぎて、虚しさだけが胸を覆った。
先程まで美しいと思っていた月光さえ不安の要因になりかねない。
漂う静寂。澄み渡る空気。吹き抜ける風に儚い光。
「神よ、お嬢様を御護りください」
知らぬ間に呟いていた。
心に秘めた言葉が無意識に出てしまったのかもしれない。
白馬を急かし、砂利道を駆けた。
立ちはだかるのは鉄の門。
昼に見た時とは印象が変わり、大きく頑丈に感じられる。
月光も相俟って非常に冷たく見える。
そんなことも構わずに息を飲んで門を叩いた。
「待っていたよ。ケルビムの執事」
ニヤリと笑う、その顔に背筋が凍った。嫌な予感しかしない。
アンリの手に握られていたのは血の滴るような紅いバラだった。
「お嬢様はどこだッ!」
紅いバラを見て予感は確信へと変貌する。
アンリを掴む、この手など幾ら汚れても構わなかった。
「安心しろ。君の大切な御主人様は屋敷の中で、静かに君を待ってる」
殴りかかりたい気持ちを必死に抑えながら、猶もアンリを睨み付ける。
「君の髪は美しいね。その髪は魔除けになるのかな?」
何をほざくか、オファニムのアンリ。お前だけは私が葬ってやる。
私は懐から拳銃を取り出す。
闇に染まるような、その拳銃は手に馴染んだ私の得物だ。
「止めたほうが良い。お嬢様を助けたければ・・・ね?」
「条件は何だ?」
考えた末の答えだった。今は何よりも、お嬢様の事が大切だ。
拳銃を懐に仕舞う。アンリは意地の悪い笑みを浮かべた。
「君は賢い。その髪を少し頂くよ。君の主と引き換えに」
「!?」
何を考えているのか、まるで解らない。
この状況で私の髪の毛が欲しいだと?
普通は命とか武器を奪うところじゃないのか?
訳の解らない提案に困っているとアンリは更に言葉を続ける。
「良いじゃないか。君の髪は長いんだし・・・悪い話じゃないだろう?」
「・・・・分かった」
一応、警戒しながら相手の出方を見る。
「そうか!では、君に返すよ。これで髪を切ると良い」
差し出されたのは銀のナイフ。僅かに血が付着している。
そのナイフに見覚えがあった。
触れたことは無かったが、お嬢様の物だ。
洗練された銀のナイフは魔の存在を許さない。
―――貴方の為ならば、私は・・・
手袋越しにナイフに触れる。
・・・とても痛い。焼けつくような痛さを初めて感じた。
だが、それを表に出す訳にもいかない。
・・・・・
音も無く髪を切った。舞い散る髪の毛は堕天使の羽を思わせる。
お嬢様の命と引き換えならば余りにも釣り合わない髪だ。
髪を近くにいた騎士に渡しながら、振り向き様に銀のナイフを投げる。
「嗚呼、申し訳ない。手が滑りました」
悪に相応しい笑みを浮かべながら自信ありげにアンリを見下す。
「いいや、気にしていない」
ナイフは軌道を大きく逸脱し、庭園の樹に深々と刺さっていた。
「君の主は此処だよ」
何やら騎士に合図するアンリ。
「・・・・・!」
何故?どうして?お嬢様を目の前に涙を零した。
そこには先程のバラとどこか重なる
・・・お嬢様の姿があった。
如何でしたか?
今回は完全なるガレッドのターンです。楽しんで頂けましたか?
皆にガレッドの格好良さが伝われば良いな~。何しろ文章が未熟なもので・・・。
それにしても、アンリも嫌な奴ですね・・・あんな奴が居るから ⇦「お前が創ったんだろ」
とにかく、次回も見て頂けると光栄です!




