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第17話 乱入男はバザーがお好き?

 ゲーム発売から一週間経った金曜日の夜。ログインした俺は、冒険者ギルド前広場の一角にバザーを開いていた。


 バザーを物色していた男が、俺の店の前に立ち止まる。商品リストを見て買う物を決めてたのか話し掛けてきた。


「ブロンズソード、品質星二のをくれ」

「1,500Gです」

「ちょいまけろよ、1,000Gな」

「1,500Gです」

「おい! そこは1,400Gとか言うもんじゃねえの?」

「1,500Gでも安いと思いますよ。お買い上げになりますか?」

「……しゃあねえな」

「ありがとうございました!」


 あの男、ずいぶんバザーを見回っていたからな。

 相場が1,700Gから1800Gと分かった上でさらに値切ろうとしたんだろう。

 安くしてやりたいが、こっちも商売だからな。



 しばらくすると、今度は女性客が立ち止まった。

 俺の顔を見ると何かを察した顔をした。

 これは例のパターンだな。


「あのー、乱入男さんですか?」

「はい、そうですよ」

「動画見ました。かっこよかったです。応援してます。がんばってくださいね」

「ありがとうございます」


 そう言い残すと女性は次の店へ向かう。


 あの事件以降、バザーをしていると客から声を掛けられることが多いのだ。

 ちょっとした有名人になってしまったらしく、見ず知らずのプレイヤーからの好感度が初めから高い。不思議な気分だ。


 二つ名は「乱入男」。親しい人以外にはそう呼ばれることが多い。

 どうせ二つ名がつくなら、もっとカッコイイものが良かったけど、俺にはどうしようもない。良い意味で呼ばれていることだけが救いだ。



 またしばらくすると、見知った顔が近づいてくる。

 フレンドのアンクだ。俺が乱入する前に取引していた狩人の兄ちゃんである。

 アンクとは四日前の月曜の夜に、広場のバザーで運良く会えた。

 取引をすっぽかした事を謝ると、すんなり許してくれた。

 事件を目撃していて、俺が巻き込まれたのが分かってたので、取引できなかったのは仕方ないと理解してくれた。

 それ以来フレンドになり、取引相手として定期的に交流している。


「おーい、マーサル。例の出来てるかい?」

「出来てますよ。ブロンズインゴット、50個です」

「カエデ材、50本と交換だな。次はブロンズの矢尻を5,000個を頼むよ」

「ありますよ。買います?」

「あるのかい。助かるけど……最近生産ばかりやってないか? お前」

「ちゃんと採掘とバザーもやってますよ」

「戦闘は?」

「……」

「……まあいい。じゃあこれ、矢尻のお金な。またメーセージ送るよ。バザーがんばれよ」



 アンクが立ち去って、またしばらくすると次の客が来る。

 今度の客はお得意様だ。素材持ち込みのほうのな。


「今日も持ってきたぜ! 赤銅鉱、3個な」

「またレアモンスター狩ったのですか?」

「どうだろうな。入手経路は秘密だ」

「3個で4,500Gですね。どうしますか?」

「今まで1個、1800Gだったよな」

「買取相場下がっているんですよ。他をあたってみますか?」

「……いや、その値段でいい、他をあたるのは面倒だ。『乱入男』の名を信用してやるぜ」

「いいんですか? 騙されるかもしれませんよ」

「騙されていたとしても、たいした金額じゃないさ。むしろ『乱入男』の信用に傷が付くほうが痛いだろうしな」

「ははは……では、取引成立ですね。またよろしくお願いします」

「またな」


 そう言い残してお得意様は去って言った。



 最近はこんな感じの商売ばかりをしている。

 四日前の月曜の夜から今日で五日目。

 掘って、作って、売って、買い取っての毎日だった。


 図らずも「乱入男」として名前と顔が売れてから、初めてログインした月曜日の夜はひどかった。俺を見て話し掛けてくる者、噂し合っている者、チラリと見ている者、いずれにしても注目されていることには変わりない。


 たまらず街を逃げ出し、採掘しまくって大量の鉱石を入手し、街に戻ってきて生産しまくった。生産中は集中する必要があるので、話し掛けてくるは人はまずいない。


 作った物は売りさばく段になって、俺は割り切って考えることにした。顔が売れたのならそれを受け入れようと。バザーで商売するのであれば、良い意味で顔が売れていて悪いことはない。


 俺が広場でバザーをし出すと、バザーしている人達に好意的に受け入れられた。何人かの生産職人系の人とも仲良くなり、素材取引を重ねてフレンドになれた人もいる。アンクもその一人だ。


 バザーをしていると話し掛けやすくなるらしく、客も「乱入男ってどんな奴だ?」みたいな感じで話し掛けてくる人が多いのだ。興味本位ではあるがそこから商売につながる事もある。先ほどの素材持ち込みのお得意様がいい例だ。


 バザーをしてても、ひっきりなしに客がくるわけではない。基本的に暇になるので、客が来ないときはネットで情報収集している。掲示板、まとめサイト、攻略サイトあたりを読み漁った。そのおかげか、知識がだいぶついた気がする。


 知識がついてくると、プレイヤー達がこのバザーシステムに、大きな不満を持っていることが分かってきた。

 普通のMMOであれば取引所があって、そこに出品して売買する仕組みがあったり、バザー用のNPC売り子を雇えたりするらしい。

 また、アイテムを一つ買うのにも、バザーを見回る必要があり、全部見回るのに時間が掛かるのも不満が高い。検索システムがないためだ。

 そういった仕組みがないので、「アイテムの売買に時間が掛かるクソ仕様だ」と掲示板では叩かれている。


 俺もこの仕様はどうかと思うが、逆に考えれば商売の種にもなる。「バザーなんかやってられるか!」という戦闘大好きの方達は、モンスター素材を自分でバザーを出して売るのはなく、素材を買い取ってくれる人に売るのである。自分でバザーを出すより安く買われてしまうが、彼等曰く「バザーしている時間があるなら、その時間を狩りに回したほうが儲かる」なんだそうな。


 なかには流通の中継ぎとして積極的に利ざやを稼いでいる者もいるみたい。

 俺は転売のイメージがつくのが怖いので、武器鍛冶で使う素材しか買い取ってない。



 そんなこんなで、掘って、作って、売って、買い取ってを繰り返した結果、ちょっとした小金持ちになった。売買するので増減するけど、300,000Gほどの現金は確保している。資本金みたいなものなので派手には使えないけどな。


 商売にすっかりはまってしまったけど、明日からの土日は冒険者応援チケットを使ってレベル上げや剣術の熟練度上げをする予定だ。

 土曜の夜にはクランの親睦会があるから、少しはレベルを上げておきたい。

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