第14話 低姿勢な神様
衛兵に左右から腕を掴まれ詰所まで連行される。
これではまるで、犯人護送シーンではないか。テレビで見たあのシーンをVRで経験することになるなんて……。
こんな姿をばあちゃんに見られたら泣かれ……ないな。たぶん。
詰所に到着すると奥の部屋に連れて行かれた。部屋の中には転移紋があり、それに乗せられて転移させられる。
転移させられた先は、学校の教室ぐらいの大きさの薄暗い部屋だった。部屋には物が何もなく、出入口もなく転移紋も見つからない。どうやら閉じ込められたようだ。
どんなことをされるのだろうか。
尋問でライトを顔に当てられ眠らせられないようにされるとか?
カツ丼食うかと言われて懐柔され自白を促されるとか?
田舎の母ちゃんが泣いてるぞと言われて情に訴えかけられたりとか?
それともファンタジーらしく拷問とか?
それはないよな。ないない。あったら訴訟になってしまう。
そもそも……ログアウトすればいいんだし!
「さあ、どうなるんだろうな」
一人で待っている間にくだらない妄想をするぐらいには、マーサルは落ち着きを取り戻していた。
連行されるのを見られるのが恥ずかしくてテンパってしまったが、この状況に至っては慌てることもない。
そもそも悪いことをしたつもりはない。ちょっとした誤解が生じただけだ。説明すれば分かってくれるだろう。
むしろ、どんな尋問をされるのか楽しみなぐらいだ。
刑事ドラマみたいな展開にはならないだろうけど。
しばらくすると、男が部屋の中に転移してきた。おそらくGMだろう。なんか強そうな装備してるし。顔はマスクで見えない。
「こんにちは。GMです。なぜここに転移されたかお分かりになりますか」
「え?」
「プレイヤーを攻撃するハラスメント行為をしたことが、警告ログから確認されております。間違いございませんか」
警告の事実はログがある以上、やってることを否定しても意味はないだろう。その上で事情を説明したほうが賢明か。
「ハラスメントの警告があったことは事実です。女の子を武器で攻撃しようとしていた男がいたので、それを防ごうとしてやむを得ず割り込みました。攻撃の意志はありませんでした。周囲にいたプレイヤー達に事情を聞いていただければ分かります」
さて、どんな反応が帰ってくるかな。
「ご回答ありがとうございます。念の為に事情を先に伺いしました。結論を申しますと、貴方の行動は防衛行動であったと認められました。ここに来る前に、関係者や目撃者の証言の確認を行っております。その結果の判断です。このたびはご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
「あっ、いえ、こちらこそお騒がせして申し訳ありませんでした」
一気に無罪判定と謝罪までしてきたか。
判断が素早い。肩すかしを食らった気分だ。
「いくつか補足させていただきますと、通常であれば一回警告が出ただけで、衛兵に拘束されたりすることはありません。しかし今回の場合は、事前に広場で騒ぎが起きており、数名の方からGMコールがなされておりました」
たしかに周囲の誰かがGMコールするとか言ってたな。
「要請を受け衛兵を出動させたところ、貴方ともう一人のプレイヤーの方が争っておりました。武器を納めるように警告したところ、もう一人のプレイヤーの方が従わず、衛兵に攻撃を行いました。その結果、治安維持を優先するために、貴方も拘束したほうがよいとの現場判断がされたようです」
「まあ、あの状況では無理ないことだと思いますよ。周囲の目があるところで、連行されるのは気分が悪かったですけどね」
「このたびの件につきまして、重ねてお詫び申し上げます」
「事情は分かりましたし、もういいですよ。ところであの男はどうなりましたか」
「申し訳ございません。処分内容を第三者へお伝えすることはできません。ご理解ください」
処分が気になったけど、仕方ないか。
「他になにもないのであれば、そろそろ帰していただけますか?」
「では、こちらに転移する前の場所に転移させていただきます。準備はよろしいですか」
「ああ、やってくれ」
「では転移させます。よい旅を」
転移先は……当然ながら詰所だ。長居は無用。とっとと退散しよう。
詰所を出ようとすると、後から声を掛けられたので振り返ると、俺を捕まえた隊長が話し掛けてくる。
「神の裁きは下ったかね」
「ええ、たぶんその神の裁きとやらが終わりました。無罪放免です」
「無事なところをみるとそのようだな。罪があればこんなに早くここには戻ってこれん。罪が重ければ旅人は戻ってこない。それがこの世界の理」
GMは確かにこの世界の神だよな。低姿勢な神だったけど。
「ではこれで失礼しますよ。お騒がせしました」
「行くがいい。連行してすまなかったな。これも仕事のうちなのでな」
「お仕事お疲れ様です」
「もう連行されるような真似はしないでくれよ」
「善処します」
そう言って詰所を出て、大きく背伸びして肩を回す。今回の件はかなり疲れたよ。出たとたんドワーフっぽい男がこちらを睨んでいるし……嫌な感じだ。すぐどこかへいってしまったけれど。
「解放されたのは良いのだが、狩人の兄ちゃんの件はどうするかだな」
この騒ぎだ。広場でバザーをしていたのなら、俺の身に起きたことも把握しているだろう。人の多い広場に行って注目を集めたくない。今はプレイヤーの誰にも会いたくない気分なんだ。
「ログアウトするか……狩人の兄ちゃんには後日あやまることにしよう」




