第1話 じいちゃんの頼み
俺の名前は新城 勝。現在27歳。幼い頃に両親を事故で亡くし、それ以来じいちゃんばあちゃんと3人で暮らしている。大学卒業後、なんとか無事就職し現在社会人5年目。今では小規模なプロジェクトリーダーを任されるようになり、最近は仕事がおもしろくなってきた。
今日の仕事を終えて会社から帰宅し部屋着に着替えてリビングに行くと、ばあちゃんは晩飯を作っている最中のようだ。じいちゃんは、たぶんいつものように自分の部屋でVRゲームでも遊んでいるのだろう。
ばあちゃんの作る晩飯が出来るのを待っている間に、先に風呂を済ませてリビングに戻ると、じいちゃんがソファーに寝転がりながらスマートグラスでAR画面操作している。たぶんあれはネットしてるな。
「じいちゃん。ただいま」
「帰ってきてたのかマサル。実は頼みがあってのう。来週の金曜に会社休んでくれんか?」
じいちゃんがこんな頼みを俺にするのは珍しい。会社を休んでくれだなんて、ただ事じゃないぞ。
「たぶんその日は休めるとは思うけど大事な用事でもあるの?」
「【Kingdom of Fantasia VR Online】ってゲームの販売開始日だ! マサルには前日の仕事帰りに店に並んで「だが断る!」・・・・・・なんだと?」
愕然とした顔のじいちゃんが俺を見つめたまま固まっている。
いつもじいちゃんのお願いごとはきいているがこれはダメだ。ゲームを入手するために会社を休む頼みはきいてあげられない。
「ゲームのために俺に会社休めとか何考えているんだ。ネットで買えばいいだろ?」
「ネットだと抽選販売で手に入らないかもしれないんだ。仕事を休ませてまでこんな事を頼むのは悪いと思っている。だがワシにとっては大事なことなんだ。頼む、マサル! この通りだ」
土下座しかねない勢いの頼むじいちゃんに驚く。筋金入りのゲーマーって事は知っているけど必死すぎる。いったいどうしたのだろうか。
「ごめん、じいちゃん。休めないことはないけどさ。ゲーム買いに行くために休みたくはないんだよ。 大事な理由があるなら説明してくれない?」
じいちゃんは答えない。しばし二人の間に沈黙が流れる。
「・・・・・・そうか。無理言ってすまんかったな。今のことは忘れてくれ」
それっきりじいちゃんはだんまり。食事中も会話がなく空気が重い。
食後すぐにじいちゃんは自分の部屋に引っ込んだ。残された俺とばあちゃんは食後のコーヒータイムだ。なんだかすごく気まずく感じるのはなぜだろう。
「ねえ、マサル。じいちゃんの頼みをきいてあげることはできないかしら?」
「えっ、ばあちゃんからも? いったいどんな深い事情があるんだよ」
「無理にとは言わないわ。でも休めそうなら頼みをきいてあげてほしいの」
ばあちゃんからも頼まれると断りづらい。なにか事情もありそうだ。
「あまり納得してなさそうな顔ね。そうね。じゃあ少しだけ事情を教えてあげる。じいちゃんには秘密よ」
なんだろう。ちょっとドキドキしてきた。
「じいちゃんが頼んでいたそのゲームね。古くからあるシリーズ物の最新作なの。思い入れのあるシリーズで、私も若いころにプレイしたわ」
へぇー、意外だな。ばあちゃんがゲームとか。
しかもじいちゃんと一緒にプレイとか。
でも夫婦だしそういうこともあるか。
「実はね。そのゲームでじいちゃん出会って結婚することになったのよ」
「ぶはぁっ?」
コーヒー吹いた。ゲームで出会って結婚?
うちのじいちゃんとばあちゃん馴れ初めがファンシー過ぎる件。
「やっぱり変に思うわよね。でもね。恋に落ちるのは理屈じゃないわ。運命の出会いは思わぬ形で訪れるものなのよ」
そういうものなのか。それで幸せになれるなら自由だと思うけどさ。俺にはゲームで恋愛は想像できない話しだ。
「そんな理由もあって想い出のゲームの最新作を私と一緒にプレイしたいってはりきっているのよ。前人気の高いゲームで一人分は確保できたのだけど、どうしても私の分を確保したいからマサルに必死に頼み込んだのよ。じいちゃんは『ワシが並んで買いに行く』って言ってたけど私が止めたのよね。もう歳だし寒空の下で並ばせるわけにはいかないもの」
そういうことか。だいたいの事情は分かった。
二人にとって大事な事なら、頼みをきくのはやぶさかではない。
「わかったよ。行くよ。行くけどさ。そこまで急いで手に入れたい物なの?」
「じいちゃんにとっては大事なことなのよ。悪いわね。わがままにつきあわせてしまって」
しかたない。これもじいちゃん孝行だ。




