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股間に詰めろ


「知らない数の子天井だ…」


昨夜、眠りについた時には、普通の天井だったはずである。

何故に魚卵が鈴生りになっているのだろうか。


まぁ良い、多少の生臭さは感じるが、一つ上の男になった俺には些細なこと。

さて、目覚めのピロートークを楽しむか…と思ったが、喋る枕はうんともすんとも言わない。

まさか、俺を残して逝ってしまったとでも言うのか!


なんて少し焦ってしまったが、喋る枕は一晩分の魔力充填しかできないそうだ。

何故か昨日と変わらず、素っ裸のままのモザイさんが、朝食の席で教えてくれた。

ついでに、一個譲ってくれないかと持ちかけたところ、快く譲ってもらえた。

命を助けてもらったお礼だそうだが、そもそも何もしていないのだが…

たまたま、世紀末馬車を退けたのだって、自分の身を守っただけのことだし。

モザイさんは義理堅い良い人だった。


しかし、枕だけを裸で持ち歩くのも奇妙な話だ。

かといって、袋に入れて持ち運ぶのも少々わずらわしい。

こんなとき、物語にでもでてくる、魔法の袋なんてものがあればな…


と思っていると、またもや股間が光り輝いた。


もしやと思い、ズボンに手をつっこむと、股間の御袋さんが薄らと熱をもっている。

余り気味の皮を引っ張ってみると、広がる広がる!


皮の口に枕を近付けると、あっというまに枕は吸い込まれてしまった。

なんと便利な魔法の御袋さんであろうか。

金玉以外にも、なんでもしまっておけるなんて。


嫁さんが握るべき大事な袋が3つある、胃袋、給料袋、金玉袋だなんて結婚式ではよく言われるが。

昔の人はうまいことを言ったもんだな。

俺にとっては、使い道の無いただの重しかと思っていたが、異世界に来て有用性が見つかるとは…


新たな発見もあり、こりゃあ幸先がいいぞ…なんて思ってはみたものの。

現実の俺としてみれば、わけもわからず異世界に飛ばされて。

唯一の目的であった、ネトリ村を救うことも必要が無さそうだし。

すでに行き詰った。


これは困った…

今までの人生、自分で何かを考えて進めたことなんてありゃしない。

学生時代は、言われるままに小学校、中学校、高校と進学し、言われるままに就職し、言われるままに仕事をしてきた。

こんな俺が、なんの指示も無く、一人で前に進めるわけが無い。


なんだよ、これじゃ日本に居た頃と、何にも変わらないじゃないか。

戦う術を手に入れた?魔法の袋を手に入れた?

それが何になるって言うんだ。


目的が欲しい。


死んだらどうなるかわからないから、とりあえず死にたくないとか。

死にたく無いから生きていたいとか。

生きる為に仕方なく仕事をするとか。

異世界に来てまで、そんな俺は嫌だよ…


「じゃああんた、探索者になってみないかい?」


肩を落とす俺に、声をかけたのはモザイさんのお母さんだった。

そう、特に明言はしていなかったが、モザイさんの実家にはモザイさんのお母さんが一人で暮らしていたのだ。

急に訪れた見知らぬ俺を、息子の恩人として手厚く歓迎してくれたお母さん。

そんなお母さんを、俺は普通にスルーしっぱなしだった。


「あんた、さっきから考えていることが全部声に出てるよ?」


「すいません、何分根暗なもので、自分の世界に引きこもると周りが見えない質で」


「いいさ、若いうちは悩むのも仕事だ」


「いや、もう37歳ですんで若いというわけでも…」


「ほう、そうは見えないが、人は見かけによらないね?まぁいい、それよりも、さっきも言ったが、探索者になってみないかい?」


「探索者…ですか?こう、人跡未踏の地を探索するとかそういう仕事ですかね?」


「そう、国の雇われで、未開の地なんかを調査する仕事だね」


なるほど、こちらの世界ではそんな仕事もあるのか。

国の雇われってことは、公務員…危険性もありそうだけれど、安定はしてそうだ。


「あたしはこんな田舎の産まれで、めったに外なんて出ない性分だし、外の珍しい土地を見てまわった話なんかが聞いてみたいんだが、探索者ってのもそうそう会えるもんでもないしね。一人くらいそういった知り合いが欲しかったのさ」


「しかし、国で雇っているということは、採用試験とかあるのでは?」


「なぁに、挑戦するだけならタダだよ。やりたいことが無いなら、試してみるのもいいんじゃないかい?」


なるほど一理ある。

それに、これこそ目的ってやつじゃないか。

探索者になる?いや、それは目的じゃない、手段だ。

探索者になって、未開の地を旅して、みやげ話をモザイさんのお母さんに持ってくる。


よし、これだ。


そういうことになった。








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