股間を隠せ
馬車による襲撃現場に到着すると、そこには男が一人倒れていた。
身なりから察するに、察するに…
駄目だ、察せない。
なんだこれ?
その男の外見から、辛うじてわかることと言えば、男であることくらい。
身につけている物は、先ほどの世紀末馬車にでもはぎ取られたのだろう、何も無い。
産まれたままの姿と言っても相違無いだろうが、大事な処だけは立派なモザイクで隠されていた。
ん…モザイク?
いや違う、これは陰毛だ!
陰毛が、精密に折り重なってモザイクを形成し、尚且つ寸分の狂いも無く被害者の股間を隠しきっている。
これは、芸術と言ってもいいのではなかろうか。
産まれ持った生え方とは考えがたいが、仮に人の手で造られた陰モザイクだとしても、かなりの技術を要する。
この発想は無かった…
やはり異世界、あなどれない。
その後、小一時間ほど陰モザイクを眺めていると、男が意識を取り戻した。
確かに、素っ裸であること以外目立った外傷も無かったので、ただ気を失っていただけなのだろう。
「うぅ…ここはどこだ…私はどうして」
目を覚ました男は、かなり混乱しているようだ。
「落ち着くんだ、ここにはもう危険は無い。」
俺がそう言うと、ようやっと男は自分を取り戻したらしい。
まともな会話ができそうなことを確認した俺は、情報収集を行うことにした。
男曰く(名前はモザイさんと言うらしい)
・あの世紀末馬車は盗賊なのではなく、ああいった怪物らしく、街道に現われては通行人の身ぐるみを剥ぐらしい。
・モザイさんは名うてのストリッパーで、普段はケジラの国で働いているのだが、久しぶりの長期連休をとって実家のあるネトリ村へ帰る途中だったそうだ。
・この世界には魔法はあるが、よくあるレベルやステータス表示なんてものは無いらしい。
・お金に関しては、モザイさんが身ぐるみ剥がされていたので実物は見ていないが、どうやら貨幣制度であり、昔はコという単位だったらしいが、最近エンという単位になったらしい。(1エンが大体1円程度の価値くらいのようだ)
ネトリ村に向かう道すがら、そういった基本的な知識を教えてもらいながら二人で歩いていたわけだが。
俺は社会の窓がフルオープン(股間光殺砲のせいで)
モザイさんは素っ裸(股間はモザイク処理済みなので安心)
社会人として、これはいけない。
モザイさんは職業的になんとも思っていないようだが、一般人の俺にはちと厳しい。
このままネトリ村に行ったら、捕まってしまう可能性が大である。
応急処置として、葉っぱか何かで隠そうとは思うのだが、手ごろな葉っぱがみつからない。
すわ絶対絶命かと思われたが、天は俺を見捨てなかった。
俺の心に、一つの言葉が浮かび上がる。
「タムシールド!」
叫びと共に、俺の股間が立派な盾となる。
俺の全身を覆い隠せるほどの盾。
これなら、どんな攻撃からでも身を守ることができるだろう…
だからどうした。
こんな盾を構えたまま行動しろと言うのか、股間を隠す為だけに。
しかも、やたら股間が痒い。
立ちつくす俺に、モザイさんからの惜しみない拍手が送られた。