股間を抜け
気がつけば異世界。
なんで異世界だってわかるかって?
看板にそう書いてあるもの「おいでませ異世界」
ほらね?
そりゃあ俺だって、すぐには信じられませんでしたよ?
でも、異世界看板に書いてある文字が何語だかわかりませんでしたし?
知らない言語なのに、読めちゃうとか、そりゃ異世界でしょう。
しかもですよ、異世界看板の横にも標識があって。
↑
ケジラの国
←ブラジル ネトリ村→
ほら、こんな看板どう考えても異世界にしか無い。
だって、ゲームとかでしか見ないもんこういうの。
まずいよこれ、どう考えても異世界来ちゃってるよ…
このあと移動すると、10歩ごとにモンスターとか出てきて殺されちゃうよ。
会社からの帰宅途中だから、なんも持ってないよ?
敢えて装備品って言うなら
Eスーツ
E腕時計
E財布
E革靴
Eブラジャー
ほら!ひのきの棒すら持ってない!
俺、通勤は手ぶら主義だから、カバンすら持ってないのよ?
もう駄目、もう終わったわ俺の人生。
見知らぬ土地で棒太郎死す。
しかし、神は俺を見捨てなかった。
絶望に打ちひしがれる俺の脳内へと、見知らぬ声が響く。
(棒太郎…棒太郎や…)
脳内に響くこの声はもしや
(そう、私が村長です)
村長かー、そっかー、こういう時って普通神様じゃないの?
(神の如き力を持った村長です、貴様をこの世界に召喚しました)
理由くらい聞かせてくれるんだよね?
(話せば長いことながら、わしは神の如き力でネトリ村を治めてきたのじゃが、最近の少子高齢化の波には抗い難く、住民の減少に歯止めをかけるべく、異世界から新たな農業の担い手を召喚するに至ったのじゃ)
理由しょぼいなー
(この召喚によって、わしは全ての力を使い果たした。あとは物言わぬ骸となって、畑の肥料になるだけじゃ。貴様だけが頼りじゃ、村を頼んだぞ…)
うわー、やっぱり異世界は土葬なんだ…病気とかやばそう
(そうそう、言い忘れるところじゃった、貴様には一つだけ便利な力を宿しておいた。使い方はおいおいわかっていくじゃろう…今度こそ本当にさらばじゃ。)
村長の言葉が終わると同時に、脳内でファンファーレが鳴り響いた。
チンポロリーン
棒太郎は股間流を覚えた。
意味がわからない、だが、頭で無く、心がそれを理解した。
そこへ現れる一匹の魔物、そう、そいつは魔物としか表現できない容姿をしていた。
緑色の肌に、頭の大部分を占める大きな瞳、口は大きく凶悪な牙が飛び出している。
そいつが俺の命を狙って襲いかかってきた。
先ほどまでの俺ならば、あっさりと命を散らしていたであろうその一撃。
その鋭い一撃を、紙一重でかわす。
俺は冷静に、股間の一物を引き出すと、余り気味の皮を二本の指で挟んだまま、思い切り後ろへ引き絞った。
緑の魔物が、再度の攻撃を仕掛けてくる。
その刹那、溜まりに溜まった力と欲望を解き放つ。
「股間流 腰流れ」
長大な刀と化した俺の一物は、一筋の軌跡を描き、緑の魔物を切り裂いた。
こうして、俺は戦う術を手に入れた。
そもそも、戦う術が必要だったのかどうかはわからないが、とにかく手に入れた。
相変わらず、生きていくのは面倒だけど。
死ぬのもやっぱり不安なままだし。
とりあえず、先に進んでみよう。
今の俺には何も無い、何も無いけど男の武器だけはある。
前に進むには、十分すぎるじゃないか。
とりあえず、ネトリ村にでも行ってみようか。
あの村長が治めた村を、一度見てみたい。
おっと、その前に魔物が何か役立ちそうなものを持ってないか調べなきゃ…
と振りむくと、赤い毛むくじゃらな魔物が、緑の魔物の死体を引きずっていくところが見えた。