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光のもとでⅠ 第十二章 自分のモノサシ  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
74/80

29 Side Kaito 02話

 話の先を促され、俺はボロボロとあれこれ零した。

「気づいたときにはほかの男がその子に惚れてた」

「くっ……おまえ、面白いことになってるな? で?」

「……最初はさ、その男に対して全然見向きもしてなかったから安心してたんだ。あぁ、こいつはまだ俺のこと好きでいてくれてるんだなって……」

「ふーん、余裕ぶっこいてたわけだ。そんな危機的状況にも関わらず」

 嫌な笑いするなぁ……。

「そうだよっ、余裕ぶっこいてました! 余裕でいられると思ってましたっ! でも、仲が良くなれば良くなるほど、その男はいいやつで俺がそう感じるってことはその子がそう思っても仕方ないわけで……」

 そうなんだよなぁ……。

 実際に佐野はすごくいいやつで、根も真面目でしっかりしてるし、話していても面白い。

 学年での人気が上がり始めてるのだって千里情報で知ってはいる。

 でも――そういうの関係なくて、飛鳥は俺だけを見ていてくれる気がしてた。

 それに、まだ縛りたくはなかったんだ。

「秋兄はさ、翠葉にたどり着くまで何人の人と付き合った?」

「……また野暮なことを」

 秋兄は苦笑する。

「何人かはわからないな。身体だけの関係なら数えろっていうほうが無理」

 おうおう、お盛んなことで……。

「でも、誰かを本気で好きになったのは彼女が初めてだよ」

 ほぉ……言い切りましたね?

 つい、自分の口角が上がる。

「俺はさ、飛鳥だけでいいんだよね……。飛鳥以外との恋愛も肉体関係も、ほかはいらない」

「くっ……おまえもつくづく藤宮の人間だよなぁ?」

「ホント、やんなっちゃうよ。なんつーかさ、余計な回り道はいらないんだ。それから心変わりする心とか。別に彼氏彼女じゃなくても飛鳥の心さえ自分に向いてくれてたらそれで良かったんだ」

「ほぉ……ずいぶんと自信家な物言いだな」

「だって……それくらいには努力してきた。好きって感情だったかはわからないけど、自分を見てほしいのなんて物心ついた頃からずっとだったし、飛鳥が自分だけを見てくれるように努力はしてきたつもり。それが見事覆されようとしている今――面白くないよ」

 つい、ガキっぽくそっぽを向いてしまう。

「海斗、どれだけがんばって水面下で努力していても、それを見せようと思わない限りは見えないんだ。俺たちは小さい頃からありとあらゆる教育を受けてきて、それらの努力を見せないように振舞うことまで教えこまれている」

 確かに、そう言われてみたらそうだ。

 俺は秋兄や司に比べたらまだまだだけど……。

「表面を繕っているというよりは、無意識なんだよな……。でも、そこから招いた落ち度という結果は、世間様じゃ余裕ぶってたツケ、というらしい」

 ぐうの音も出ない……。

 俺は自分を見ていてほしいがための努力なんて飛鳥に知られたくなかったし、知られないようにしていたわけで……。

 それらが無意識か意識的か、と問われるならば、それは意識的。

 そうとは知らずに俺を見ていてくれる飛鳥に満足していた。

「もう少しこのままでいたかったんだけどなぁ……」

「なんで? 彼女が好きでいてくれて、自分も好きなら付き合えば良かったのに」

「だってさ、自分の彼女ってなったら俺、抑えられる自信ないもん」

「ん?」

 意味がわからないという顔をされた。

「俺さ、秋兄の弟なわけですよ」

「あぁ、間違いないな」

「だからさ、性欲だってそれなりなんですよね」

 自分の彼女になんてなってしまったら、それこそ際限なく飛鳥を求めてしまいそうだ。

「なるほどね」

 秋兄はおかしそうに笑った。

「でも、両思いならいいんじゃないの? 避妊の仕方だって知ってるわけだし、俺よりも健全だと思うけど?」

 それはあなた……ところかまわず性欲を吐き散らかしてきました、って言ってるようなものだと思うけどっ!?

 そう思ったのが顔に出ていたのか、

「否定はしないよ」

 と苦笑した。

「潔いね?」

 それは正直な感想。

「過去は変えられないだろ。俺にあるのはこれからだけだ」

 どこか憂いを含む表情。

「……聞いたよ。翠葉が秋兄と司の記憶をなくしたって。……いったい何したんだよ」

 桃華から聞いたときはちょっと苛立った。あの翠葉に何をしたんだ、と。

 でも、その件に関して俺に情報をくれる人間はいなかった。

 正直に言おう。

 部室にある俺のロッカーは現在閉まらないことになっている。なぜならば、俺が力任せに蹴飛ばしたからだ。

「キス以上の行為はしていないけど、それ以上に傷つけることというか――怖がらせるようなことをした」

 すでに反省しつくした顔……。

「もう怖がらせたくはない。でも、どうしたら彼女に近づけるのかがわからない。だから、彼女が司を頼りにしているのを邪魔もできない――っていうのが少し前までの俺。おまえはそんなふうになるなよ」

 言われなくても、と返したい。けど、それも何か違う。

「因みに、今は?」

「そうだなぁ、成り行きで変な約束しちゃったからなぁ……。しばらく自分からは動かずおとなしくしてるつもりなんだけど、その期間がまた微妙な期間でさ。紅葉祭前なんて期間じゃなければ意外と大丈夫そうだったのに、どうしてか『今』なんだよね」

 確かに微妙な期間。……というか、ここに来て司が地味ながらも行動に移し始めた気がするし、翠葉もその司を頼りにしていて、その行動を受け入れている。

 そんなことも、秋兄は気づいてるんだろうな。

「でもま、そのあとは普通に、かな」

 実の兄が言うところの「普通」がわからねぇ……。

「普通って?」

「普通は普通。ただ、俺らしく、翠葉ちゃんに意識してもらえるように動くまで。好きな子が自分の言葉や行動でドキドキしてくれるのってたまらなく嬉しくない?」

「同感……」

「だから、それを実行するまでだよ」

 なるほどね……。

「俺、紅葉祭のときに公開告白しちゃおっかなぁ……」

「また豪快な手に出るな。なんていうか、実に俺の弟らしい」

 秋兄はくくっ、と背中を丸めて笑った。

「まだ少しでも可能性があるなら、ね。でもって、これ以上ほかの男に言い寄られてるところも見たくないから、自分のって全校生徒の前で言っておきたい」

 秋兄の目を見ると、

「それでこそ俺の弟」

 と、満足そうに笑った。

「そう、俺は秋兄の弟で藤宮の人間。だから、どうあっても飛鳥は佐野に譲らない」

 言葉にしたら妙にすっきりした。

「なるほど、そういう関係だったわけか」

 そこに携帯が鳴った。

「はい」

 出たのは秋兄。

「わかった、伝えておく」

「……誰から?」

「司。ほら、あそこで不機嫌そうな顔してるだろ?」

 と、秋兄の仕事部屋を指す。

「おまえが携帯も持たずに出ていったまま戻ってこないって。プリンターのインクを取りに俺の部屋に入ったら見えたらしいよ」

 げっ――。

 司が腕時計を指差しにこりと笑った。

 まだぶすっとした顔をされているほうが平和だったのにっ。

「やっべ、俺戻るわっ! 話聞いてくれて助かった!」

「がんばれ、高校生」

 図書棟までの道は一本。

 加減なしに突っ走って図書室に入るとき、女子とぶつかった。

 女子っていうか、飛鳥。

「悪いっ」

 咄嗟にバランスを崩した飛鳥の腕を取る。

「わわわっ、だっ、大丈夫っ。こっちこそごめんっ」

 飛鳥は慌てて走り去ったけど……。

 今、赤面した――間違いなく。

「まだ勝算あるのかも……?」

 ……うっし、がんばるぞっと!

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