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光のもとでⅠ 第十二章 自分のモノサシ  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
68/80

24 Side Reju 03話

 円形と言えない建物は三つ。

 ひとつはステーション。ほかの二つは惑星系の外にある。

 外とは言えど、惑星系からその建物までアプローチが続くため、天候に左右されることはない。

 ひとつは石造りの教会。

 陽が落ちてからなら、外の設置した照明の演出と建物内から漏れる光で幻想的な建物に見えるが、昼間はそうはいかない。

 外観はゴツゴツとした岩のドームにしか見えない建物だが、屋内に入って見上げれば、天井はアーチ状の岩と岩の合間にガラスの窓が取り付けられており、その窓から十分な採光が望める。

 施設内のほかの建物と比べると、ガラス張りとは言えない建物でありながらも、もっとも効果的な頂光採光を用いることで、人工照明がなくてもかなり明るい。

 天候が悪くても、その明るさにはほとんど影響が出ないだろう。

 基本は天窓から差し込む光のみで教会内を照らすが、念のためにフットライトは至るところに設置されている。

 チャーチチェアの脇にはガラスで覆われたキャンドルを使用。

 このキャンドルは新郎新婦の好みの香りを調合したアロマキャンドルを使うらしい。

 挙式のある日は施設内の空調から出るアロマミスとにもその香りが使われる。

 その他の照明は壁面に数ヶ所。

 光の陰影が美しく見えるように、柔らかく発色する電球色の蛍光灯を設置した。

 収容人数はがんばって詰め込んでも三、四十人といったところ。

 天窓部分は開閉ができるようになっているため、夏は涼しいこと間違いないのだが、これからの季節はかなり寒いと思う。

 冷気は上から降ってくる。

 そこは頭寒足熱ってことでそこら中に遠赤外線暖房を仕込んでみたけれど、どこまで室温を上げられるかは不明。

 最終チェックはそこかもしれない。


 もうひとつの例外は、その教会の並びにある。

 ――「森の中にガラスの建物があったらきれいだよね? 朝は朝露が朝陽を浴びてキラキラ。夜はお月様とお星様がキラキラ。日中は森の緑がサワサワ音を立てて、夏でも涼やかな音を聞かせてくれるんだよ。それからね、陽射しを受けた葉っぱを下から見上げたら葉脈が見えてとてもきれいだと思うの。だから、屋根も透明で角錐か円錐! 角錐のほうが光の反射がきれいかなっ!?」。

 確か、中学に上がるころだったと思う。

 水晶展示会に連れていった帰りに翠葉がそんなことを言いだした。

 水晶柱からイメージを膨らませたようで、目をキラキラと輝かせて話すから、家に帰ってきて、どれどれ、と絵を描かせたのだ。

 すると、それはそれはきれいな八角形の角錐を描いた。

 周りは見事に木だらけ。

 この建物は、ずっと大切にしまっていたその絵をそのまま形に起こしただけ。

 周りは森ではなく山の木々だけど……。まぁ、似たようなものでしょ?

 翠葉はこれを見たら思い出してくれるかな?

 名前は静に頼んでつけさせてもらった。「ガーデンクォーツ」と。

 翠葉が好きだと言った水晶の名前だ。

 水晶の説明に釘付けになった翠葉は、「この水晶が欲しい」と珍しく俺にねだった。そして、ワークショップでガーデンクォーツのネックレスを買ってあげたのだが、今なら、どうして翠葉がこの石に心惹かれたのかがよくわかる。

 口にしない代わりに石に願ったのだろう。元気になりたい、と――。

 全面ガラス張りの八角形のフロアは、翠葉の要望どおり角錐の天井だ。

 場合によってはここで人前式なんて形もとれる。

 収容人数は三十人がせいぜいかなぁ……。

 静たちは挙式のあと、ここでごくごく身内の人間と小さな宴を開く。

 その翌日、藤宮財閥会長のバースデーパーティーが開かれるのはステーション二階にあるパーティーフロアだ。

 親族や財界人が集るそのときに結婚のお披露目をしてしまおうというのだから、さすがというかずるいというか、静だ……。

「ウィステリアホテルのオーナーが表向きの披露宴をしないなんて、許されるのか? ほら、企業向けっていうかさぁ……」

「湊が嫌がるからな」

 ほぉぉぉぉぉ……。

「第一面倒だ」

 をぃ、と突っ込みたくはなったが、こっちのほうがよっぽど静らしくて頷ける。

「これからは、パーティーに出席する際には湊を同伴することになる。それに、どこの誰を呼んでどこの誰を呼ばないなど面倒な振り分けをしていられるか」

 いや、もし披露宴をやることになったとしても、その面倒な作業をやる羽目になるのは澤村さんあたりだと思う……。

「金持ちなんだから全員呼んじゃえばいいだろ? そしたらご祝儀がっぽがっぽだよ。それにやるならウィステリアホテルを使うんだろうから収益還元になるじゃんか」

「ほぉ……零樹らしくない物言いだな」

「だって俺の話じゃないし。むしろ静らしいと思って口にしたんだけど?」

「……おまえがどんな目で俺を見ているのかがよくわかった」

 にこりと微笑む親友が悪鬼にしか見えなかった俺の目は大丈夫だろうか……。

「だいたいにして、その日までに割く時間やその日に割かれる時間すべてが無駄に思えてならない」

「あぁ、なるほど……。それもとてもおまえらしい理由だな」

「もっとも、その間ずっと笑顔の仮面を貼り付けた湊を見ていられるのは楽しいかもしれないが」

 静が口端を上げて愉快そうに笑った。

 なんていうか、こいつはどこまでも藤宮静という人間そのものだった。

「湊先生はそれでいいって?」

「あぁ、諸手を挙げて喜んでいたさ。これ以上、招待状の宛名書きはしないとな」

 その言い分に俺と静は笑う。

 だって、こいつひどいよ。

 自分だって表向きの披露宴なんてやるつもりさらさらないくせに、それをやらない条件として、会長のバースデーパーティーの招待状の宛名書きを全部湊先生にやらせてるんだから。

 ひどいやつ、と思いながら見ていると、静は報告書に目を通しながらこう言った。

「湊もあまり交友関係が広いほうじゃない。招待したい人間など限られている」

 ずいぶんと穏やかな顔をしていた。

「なんかさ、人間ってのはおさまるべきところにおさまるものなのかね?」

 深い意味はなく口にした言葉。

 だって、いつも難しい顔をしてばかりのおまえがそんな顔をしていたからさ――。

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