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光のもとでⅠ 第十二章 自分のモノサシ  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
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22~25 Side Yui 03話

 翌朝、あんちゃんの質問に俺のか弱い心臓が飛び跳ねた。

「翠葉、ちゃんと寝てるか?」ってだけなんだけど……。

 今日、これから病院へ行って相馬先生に諭されるなりなんなりするんだから、何も今言わなくても、と思ってしまった。

 リィもびっくりした顔をして、それでも平静を装うように答えるし……。

 このふたり何してんの? お互い、仮面つけたような会話しちゃって……。

 リィが出かける用意をするのに自室へ戻ったとき、思わず零しちゃったよね。

「やめてよ、心臓に悪い会話とか。いつか俺の心臓が俺から逃亡したらあんちゃんのせいだからねっ!?」

「……やっぱり言ってもらえないものなんだな」

 そこか……。

 あんちゃんの視線は廊下の先に向けられていた。

 ……あんちゃんにはない?

 たとえばさ、努力しているところを見せずに何かをやり遂げて褒めてもらいたいとか、そういうの。ないかな?

 水鳥みたいに水面下では一生懸命足をバタつかせ、水上では澄ました顔してるっていうか……。

 そんな苦労ものともしないよ、って顔をしていたい気分っていうのかな?

 リィのそれとこれはだいぶ違うかもしれないけれど、俺はわかるよ。

 自分を認めてもらいたくてがんばる、っていうの。

 相手が友達だろうが親だろうが兄弟だろうが上司だろうが関係ない。ただ、認めてもらいたいだけなんだ。

 認めてもらえるだけの何かをしたいだけなんだ。

 すごくひたむきに、ただそれだけを考えている。

 リィ、そうだよね……?

 きっと、今どれだけ自分の身体に見合わない行動を取っているかなんてわかっているんだ。

 それでも、もう心が許容オーバー。動かずにはいられない――。

 俺も止めたいとは思うんだよ。

 でもね、やりたいことを倒れるまでやってごらん、って言える人間がひとりくらいいてもいいよね、とも思う。

 美味しい役とかそういうことじゃなくて、ひとりくらい「突っ走ってごらん」って言ってあげられる人がいてもいいんじゃないかな。

 これだけ心配して止めようとしている人間がいるんだから、ひとりくらいいたっていいでしょ?

 こういうの比べたらいけないってわかってる。でもさ、比較の対象があったらどうしても比べずにはいられない。

 セリは歩くことも許されず、一日に摂取できる水分量も限られていた。今のリィよりももっと厳しい制約の中で生きていた。

 リィにそれと比べてみろなんて言わない。

 そうじゃなくて、俺が自分の中でふたりを比べてる。そして、もう少しくらいやらせてあげても、と思う。

 だって……リィには多少無理しても異常を知らせてくれる装置がついているんだから。それ、もっと有効活用しようよ。


 ――結果、突っ走ってごらん、って言う前に回収作業されちゃったわけだけど……。

 あぁ、なんて悲痛な声なんだろう。嗚咽なんだろう。セリもこんなふうに泣くことがあったのだろうか。

 なぁ、セリ……。今、上から見てたりする?

 ぼんやりと埋め込み式のスポットライトを見上げる。

 視界がオレンジ色の光に占拠された。

 俺、リィに何をしてあげられるかな?

 セリにできなかったこと――。

 セリにはできなかったことでもリィにはできることがたくさんあると思うんだ。それに、俺がセリにしてあげられなかったことをリィにはしてあげたいと思う。

 あんな装置がついているんだから、少しの無理くらいさせてあげればいい。多少痛い思いをしても、やりたいことをさせてあげたらいいと思う。

 セリ、病人の意見としてどうよ?

 ふ、と脳裏にセリのむっとした顔が浮かんだ。

 あぁ、悪い悪い……。病人扱いしたこと怒ってんのね。

 でもさ、仕方ないじゃん。セリもリィも、決して健康とは言えないんだから。

 その状態でどうやったら満足させてあげられるかな。どうしたら気持ちを満たしてあげられるんだろう。

「今のままじゃ生徒会なんて続けられっこないじゃんさ」

 ……ん? あれ? 今、セリが笑った気がしたんだけど……。

「え? 何? 生徒会がキー?」

 いい加減、上を向いていた首が痛くなって下を向く。

 生徒会が続けられない、生徒会にいられない、生徒会にいたい――生徒会生徒会生徒会……司くん?

 いやいやいや、ただ単に学校ってことかな。

 ちょっとどっちかわからないけど、そこがネックなんだとしたら、なんとかしてくれそうな人はいるんじゃん?

 あとで司くんに電話しよう、そうしよう。

 今日はどうやっても学校になんて行かせてもらえないだろうし……。

 中の話を聞いていると、急に大声が廊下に飛んできた。

「おら、そこにいるバカ二号、とっとと入ってきやがれ」

 あ、れ……? いつからばれてたんだろう?

 ついでにバカ二号ってどういうことだろう?

 立ち上がり、病室に顔だけを覗かせる。

「立ち聞きばれてました? あ、でも、ちゃんとお行儀良くソファに座って聞いてたんですけどね?」

「……唯兄」

 リィは涙でぐちゃぐちゃになった顔をこちらへ向けた。

 あーあ……かわいい顔が台無しだね。

 リィの隣、空いている右隣に腰掛けると、

「ごめんね」

 今までの話、ほとんど聞いてた。それに、今日なんでここに呼ばれてるのかも知ってた。

 ごめんね……。

「キッチンにあんなもの置いてて。あれさえ見つけなければこんなことにはならなかったもんね」

「違うっ――私が勝手に手にしただけ」

 リィはいい子だ。人のせいにはしない。

 だからいつも自分が苦しくなるのに、それにすら気づいていない。

 いい子で頭も悪くないけど、こういうところは本当に鈍いよね。

 最近知ったこと。素直な不器用っていう人種がいる。

 捻くれた不器用ならゴロゴロいる。

 ふたつを同じ枠に入れるとしたら、正直者ってところかな。

「涙がたくさん出るね」

 自分の持ってるハンカチで涙を拭いてあげた。そのハンカチに次々と涙が染み込む。

「スイハ、つらいかもしれないけど少し休め。このままは良くない。痛みだって薬で抑えてんだろ?」

 リィ、痛みだってバイタルを見ていたらわかるんだよ。

 本人は痛いときそれどころじゃないから、どんな数値変化があるのかはわからないのかもしれないけれど。

「あと十分もしたら昇が来る。そしたら施術してもらえ。今日明日はゆっくり自宅で休むこと」

「っ――」

 そりゃそうだよね。そこまで準備してるよね。

 昇先生の治療を入れるとしたら日曜日しかなかったっていうのもあるのかな。

 ……でも、月曜日に通院予約が入っていたはずだから――やっぱり、身体がもう限界だったんだ。

「スイハ、ひとりで抱えんな。つらかったらつらいで周りの人間に吐け。俺でもいいから」

 そんなふうに言う相馬先生を眺めつつ、俺も言葉を足す。

「そうそう、泣き言言っちゃいなよ。俺なんて毎日のように言ってるよ。秋斗さん、ほんっと人遣い粗いんだから。あ、それからオーナーもね」

「くっ、バカ二号は頭のつくりがいいみてぇだな? 説明だって一から十までしなくとも察することができんだろ? そういうやつが部下にいると楽なんだ」

 ケケケ、と先生が笑う。

「俺、何気に顔も頭もいいんですよねぇ……。それを買われちゃって困るのなんのって」

 本当のところ、俺はもとから頭がいいわけじゃない。

 ……努力をした。それこそ、血の滲むような努力をね。だから、今の俺がいる。

 俺、相馬先生嫌いじゃない。この人すごくいい人だと思う。

 悪役も何もかもひとりで引き受けて、ちゃんと最初からリィの味方で、最後までリィの味方。

 大人、だよね。決してずるくない大人。

 大人なんてクソ食らえ、と思ったりしなくもないけれど、こんな大人ならいいなと思う。

 秋斗さんも蔵元さんも俺よりも年上だけど、大人って印象よりも仲間。上司だけど、それでも仲間。でも、零樹さんとこの人は大人だと思う。

 なれるものならこんな大人になりたいよ。

 そういえば、何かの本に書いてあったっけ。

 こうなりたい、と思える人間が側にいることはものすごくラッキーなことだって……。

 見計らったかのように、「入るぞー」と昇先生がカートを押して入ってきた。

 そのあとから栞さんと湊さん、あんちゃんが入ってくる。

「おら、言うことがあんなら一気に済ませろや」

 ほら、ここまで見越してこのメンバー揃えてるんだからさ。

 あんちゃん、この人すごい人だと思うよ。俺はこの人がリィの主治医のひとりであることにものすごく感謝してる。

 すごいよね。俺が感謝とかさらっと思っちゃうんだから。すごいことだよ。


 治療が始まると、治療に関係のない俺たちは廊下へ出た。

 病室を出るときに、

「司くんには俺から連絡入れてもいい?」

「……お願いしてもいい?」

「もっちろん!」

 さ、こっからはお兄さんががんばりましょう?

 司くん、ちょっとあれこれ考えてよね。

 リィが学校へ通いつつ、体調に無理なく生徒会に絡んでいられる方法。

 君なら何かしら思いつくでしょ?

 思いつかなくても何かしら編み出してよね。  俺のかわいい妹のために。君が大好きな女の子のために――。

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