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光のもとでⅠ 第十二章 自分のモノサシ  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
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01~03 Side Kaito 01話

 今日一日、ずっと翠葉の様子がおかしかった。

 具合が悪いとかそういうことではなく、妙に「周り」を意識して怖がっていたように見えた。

 なんでそんなことになっているのか知りたいのに、訊こうと思うと隣の席の空太が勉強を教えてくれと言ってくる。

 だいたいにして、朝から空太と翠葉が一緒の時点で何かおかしいとは思っていたんだ。

 でもって、今それが確信に変わった。

 桃華さん、あの野郎、とっとと教室出て行きやがりましたぜ?

「あっ、ちょっと翠葉っ!?」

 え――?

 気づいたときには翠葉が空太を追いかけて走り出していた。

 ちょっ――!?

「もうさ、絶対に空太は何か知ってるよねっ!?」

 珍しくも飛鳥が管を巻きそうな勢いだ。

「私たちが翠葉から強引に聞きだすっていう手には出られないことがわかってるから、自分にくるであろう質問をかわすために即行出てったよねっ!?」

 俺もそう睨んでいる。

 ほかのクラスメイトは翠葉が心配で、未だ教室に留まっている。そんな中、ひとり出ていくなんて何か知ってるとしか思えない。

 しっかし……どうしたもんかな。

 翠葉はかばんを置いたままとはいえ、空太を追いかけていっちゃうし……。

 時間を見計らって、電話をかけて空太を連れ戻すしかねぇな。

「海斗、翠は?」

 珍しく、司が俺の席まで来た。

「あぁ……今、空太を追って出ていっちゃったところなんだ。かばんはそこにあるから戻ってくると思うんだけど」

「あぁ、そう。じゃ、これは俺が持っていくから翠は戻らない」

 司はすでに帰り支度の済んでいるかばんに手を伸ばした。

「ちょっと、藤宮センパイ。なんなのかしら?」

 桃華が司をセンパイ付けで呼ぶなんて、よほど頭にきていると見た。

 こめかみのあたりがひくついて見えるのは気のせいじゃないと思う。

「翠はこのあと病院」

 司が一言答えると、桃華も黙った。

 このあとが病院なら翠葉は引き止めておけない。

 翠葉の体調が本調子じゃないことなんてみんなわかっていたから。

 司が教室を出たあと、桃華に名前を呼ばれた。満面の笑みを湛えた表情で、

「数分後には高崎空太の身柄を確保」

「イェッサー」

 司が行けば空太は翠葉と離れるだろう。

 ……そのまま帰してなるものか――。

「周りぎっちり固めようぜ」

 不敵な笑みを浮かべそう言ったのは佐野。

 俺ら男子は教室を出て空太を捜索した。

 昇降口で翠葉の後ろ姿を確認した直後、空太が桜林館の外周廊下からこっちに向かって歩いてくるのを見つける。

 空太は俺たちを視界に認めると、身体を反転させ猛ダッシュで走りだした。

「ざっけんなっ、逃がさねぇっ!」

「海斗はそのまま追って。俺と河野は逆から回るっ」

「よしっ、頼んだっ」

 佐野と和総がふたり外周廊下を左回りに駆けだした。

 絶対に挟み撃ちにしてやるっっっ――。


 で、見事とっ捕まえて教室へ戻ってきたものの、空太はなかなか口を割らない。

 普段なら黙秘権は守ってやりたいところだけど、今回だけは無理。

 あんな翠葉を見ているのは耐えられないし、あんな怯えた目で見られるのだって堪える。

「空太、それは翠葉に気を使って言えないの? それとも、あの男――藤宮司が絡んでるから言えないの?」

 ……は?

「桃華さん、それ、何の話っすか?」

 桃華はこの短時間で何か情報を掴んだのだろうか。

「さっき、昇降口から翠葉と藤宮司が出ていくところが見えただけ。……翠葉ったら、あの男の隣にすら並ばないの。数メートル後ろを歩いていたわ」

「……はぁぁぁぁっ!?」

 なんだ、それ。あり得ないだろ? 司まで警戒してるなんてさ。

「やっぱ全然だめなんじゃん……。俺、どうしてあげたら良かったんだろ」

 空太がポツリと零した。

「いい加減吐いて楽になれ」

 空太の背中を軽く叩く佐野は犯罪者を諭す刑事のようだ。

「空太、空太だけで翠葉のフォローができると思う?」

 言い聞かせるように桃華が声をかけたが、それに続く言葉は肝まで冷えそうな一言だった。

「そんなことができると思う傲慢な人間はひとりだけで十分なのよね……」

 すげぇ怖えぇ……しかも、その傲慢な人間って間違いなく司のことだろ?

 空太は観念したようにその場にしゃがみこんだ。

「俺はさ、今回のことを知りたくて知ったわけでも、その場に居合わせて知ったわけでもないんだ。翠葉ちゃんも藤宮先輩も、まさかあそこで誰かが聞いているなんて思わずに会話していたわけで、そんな会話の内容を俺が人に言っていいわけないじゃん」

 なんとなく状況がわかった気がする。

「おまえ、昨日、葵くんのとこに泊ってたの?」

「そう……。今朝、兄ちゃんの家を出ようとしたとき、ふたりが通路で話しているのを偶然聞いちゃったんだ。本当は聞かなかったことにして遅刻して来ようかと思った」

 結局は一緒に来ることになった。その理由は……?

 尋ねると、

「……見過ごせなかったんだ。翠葉ちゃん、藤宮先輩の言葉に萎縮しきっちゃって、学校が怖いって泣いてて――あのままだったら学校へ来れなくなっちゃう気がしたし、その場にいるのに何もしないのは違うって思ったから……」

 ちょっと待て……。

「今、なんて言ったのかしら?」

 俺より先に桃華が口を開いた。

「私の聞き間違いでなければ、藤宮司が翠葉に何かを言って、それで翠葉が萎縮したと聞こえたのだけど。それは間違いじゃなくて?」

「間違いじゃないよ。今だって、藤宮先輩が病院へ行くのに付き添うって聞いて、翠葉ちゃんは何も話せなくなるくらいに怯えていたのに――俺、何もできなくて……。全然大丈夫じゃないのに、翠葉ちゃんに『大丈夫』って言わせた」

 空太は肩を落とした。

「おい、おまえらとっとと帰れー」

 教室に顔を出した先生に言われる。

 やば、もうそんな時間かっ!?

 うちの学校はホームルームが終わってから三十分すると教室に鍵がかけられる。もしも教室を使いたいのなら、事前に申請が必要。

 勉強をするなら梅林館へ行けということなのだが、図書館に行ったところでこの人数で話をするのは無理。

「先生、わからない問題を海斗くんに聞いていただけなので、もうすぐ帰ります」

 先生に返事をしたのは希和だった。

 希和、ぐっじょぶ!

「……とりあえず、今日のところは解散」

 桃華がその場を仕切り始めた。

「空太の話からすると、藤宮司が翠葉の傷をつついたんでしょ。で、翠葉はまんまと人間不信全開。うちのクラスにとっては大迷惑もいいところ。それでも……できることはひとつ。翠葉に時間が必要なら私たちは待つ。待つのはこのクラスでいいはず。私たちのホームグラウンドはここ、一年B組の教室でいいわよね?」

 周りを見回すと、みんなは無言で頷いた。

「はい、じゃぁここまで。頭をしっかり切り替えてテスト勉強するように。……あぁ、わからない問題があれば翠葉に訊けばいいわ。動揺はするかもしれないけれど、すごく丁寧に教えてくれるから」


 昇降口を出ると、みんなそれぞれの方角へと散っていく。

 基本、高等部門を利用する人間は電車通学の人間か、家が学校よりも南か西にある生徒のみ。そのほかは中等部門、大学部門、初等部幼稚部門を利用する。

 さらには、歩きか自転車かバスか、という差もある。各校門へ向かうのに学内循環バスを使う人間もいれば、徒歩で学園内を歩く人間もいる。自転車通学の人間は自転車。と、二十九人が一気にばらけるときだった。

 高等部門を利用するのは、テスト期間限定の俺と電車通学の佐野。

 家が学校の南にある飛鳥と桃華。西にある空太。

 なんて好都合なメンバーなのだろう。

 あの場で桃華に仕切られても俺は全然納得いってない。

「空太、勉強見てやるからマンションに来いよ」

「え……いいよ。遠慮しとく」

 数歩後ずさった空太の肩に手を回し、

「今日の休み時間、ことあるごとに色々訊いてきてたじゃん? 全部みっちり教えてやるよ」

 司が翠葉に付き添っているということは、ふたりが帰ってくるまで俺はフリー……。

「うっわ……海斗、ドス黒オーラ炸裂」

 飛鳥がそう言うくらい、俺は今猛烈に機嫌が悪い。

 よりによって、なんで司が翠葉を傷つけてんだよっ。

「ちょうどいいわね。空太、それの後始末よろしくね」

 桃華はにこりと笑い、佐野と飛鳥を連れ立って公道の坂を下り始めた。

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