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光のもとでⅠ 第十二章 自分のモノサシ  作者: 葉野りるは
本編
43/80

43話

「いよいよ明日だね」なんて話をしながら、歌合せがすべて終わった私は茜先輩とふたり、桜林館からテラスへ出た。

 外はまだ薄暗い程度で、あたりを見渡すことができる。

 少し火照った身体には心地よいと思える風が吹いていた。歌を歌ったあとじゃなかったら少し肌寒いと感じたかもしれない。

 生徒会メンバーの歌合せは午後から演目順不同で行われており、私と茜先輩のデュエットが一番最後だったこともあり、私たち以外のメンバーはすでに図書室へ戻っている。ただ、華道部の桃華さんだけは飾り付けのため、まだ桜林館に残っていた。

 久しぶりに寄った図書室では、あらかじめ渡していた会計のデータをツカサと優太先輩が最終チェックをしているところだった。

 ほかのメンバーは作業が粗方終わっているのか、あとは明日を待つのみ、といった感じ。

 何かの話の流れでこんな話題になったのかは忘れてしまったけれど、どんな気持ちで歌を歌うか、という話になっていた。

「翠葉はさ、何を思って歌うの?」

 嵐子先輩の問いには迷う必要がなかった。

「大好きな人たちに『ありがとう』と『大好き』を伝えたくて」

 答えるとき、自然と笑顔になった自分に気づく。

「翠葉ちゃんには好きな人がいっぱい?」

 訊いてきたのは朝陽先輩。

「はい! クラスメイトも生徒会メンバーも、それから、紅葉祭の準備を通して知り合った人たちも」

 会計作業のチェックをしている優太先輩が顔を上げ、

「でも、翠葉ちゃんの歌うものって恋愛ものが多くない?」

 恋愛、もの……?

 聞き慣れない言葉に反応が遅れてしまった。すると、

「優太、作業に集中しろ」

 ツカサが優太先輩に釘を刺す。けれども優太先輩は作業に戻らず、私の顔を覗き込んで応答を待っていた。

「これ、恋愛の歌だったんですか……?」

 私の一言に周りの人たちが絶句する。

 動作にも表情にも変化がなかったのはツカサだけ。

 数秒遅れて「マジでっ!?」と訊いてきたのは優太先輩。

 私は頷く以外に答えようがなかった。

「これでミスがあったら優太の責任にするけど?」

 容赦ないツカサの言葉に、優太先輩はやむを得なく作業に戻った。

 そのあとはほかのメンバーに詰め寄られ、一気に歌詞についてのアナリーゼじみた話に移行する。

 質問されることに対してうまく答えられている気はしないけど、どんな気持ちで歌っているのかはちゃんと伝えられただろうか。

 私が何か言うたびにみんなは呆れモードだったけれど、茜先輩だけがいつもと変わらない笑顔でこう言ってくれた。

「翠葉ちゃんには翠葉ちゃんのものの見方、感じ方があるもの。みんなと同じじゃなくてもいいんじゃない? ただ、気持ちをこめて――それが翠葉ちゃんの大切で大好きな人たちに伝わればそれでいいんだよ」

 その言葉は、「恋愛」という歌詞に動揺し始めた私の心をふわっと包んで落ち着けてくれた。


 今日は金曜日、いつもより遅めの時間だけれど、前回の水曜日に相馬先生が「かまわない」と言ってくれたので、今日は五時から病院で治療をしてもらう。

「とうとう明日だな」

 脈診をされながらの会話。

「はい。すごく楽しみで、すごく緊張していて、今日の夜、眠れるかが不安です」

 苦笑して答えると、

「そんなときこそ睡眠導入剤だろ」

 と、呆れたように言われた。

 普段から使っている薬なのに、考え付かなかった自分にびっくりした。

「あ、そっかって顔してんじゃねぇ」

 相馬先生も今日は心なしか表情が穏やかだ。

「明日は俺も学校にいるから、目一杯やってこい。何かあれば保健室にいる」

「本当ですかっ!?」

「あぁ、お姫さんには滅法やな顔されたがな」

 あ――。

 ここのところ、湊先生と相馬先生が一緒にいるところを見ていなかったからか、あまり良い関係ではないことをすっかり忘れていた。

「でも、俺を学校に招いたのはナンバーツーだ。ナンバーツーはナンバーツーなりにスイハのことを心配してるんだろ」

 静さん……。

 私はブライトネスパレスへ行って以来、静さんとは一切の連絡を取っていない。

 唯兄からプロジェクトの進行はなんとなく聞いているけれど、今までなら静さんから直接連絡が入っていたようなことも唯兄の口から聞いていた。

「当日はナンバーツーも来るらしいぜ?」

「え?」

「もっとも、一日目だけらしいがな」

「そうなんですか?」

「あぁ、運営側にいるんじゃ忙しくてそれどこじゃないかもしれないが、あの男のことだ。隙を見て話しかけに行くんじゃないか?」

 嬉しい反面、緊張も伴う。

「おまえは素直だなぁ……。一気にストレスの脈が強まったぞ」

「う……」

 相馬先生は両手首を離し、鍼の施術に移る。

「ナンバーツーに会うのはそんなにストレスか? なんだ、仕事のことか?」

「……仕事のことももちろんなのですが、学校で静さんに話しかけられるのはなんだかとても都合が悪い気がして……」

 だって、あそこは「藤宮学園」なのだ。

 幼稚舎からエレベーターで上がってくる生徒が多いうえに、どこぞの会社の令嬢や御曹司が多い。きっと静さんの顔を知っている人だって多いだろう。そこで、一般人の私が静さんに話しかけられようものなら、どんな目で見られることか……。

 ツカサと仲良くするだけでも、「両親が病院と懇意にしてるから」と言われてしまうのだから、静さんと話しているところを見られたら次はなんと言われるのか、考えるだけでも恐ろしい。

 静さんとの関係を訊かれても仕事の話はタブーだし、「両親の親友」というのは事実だけど、それを素直に答えて何も言われない自信もない。

「ま、そんな考えるな」

「先生っ、他人事だと思ってっ」

「他人事だろ?」

 ニヤリと笑うから性質が悪い。

「安心しろ。仮にもナンバーツーだ。そんな下手な接触の仕方はしないだろ」

 あ……それはそうかもしれない。

「明日は滋養強壮剤使うのか?」

「……いえ、使いません」

 相馬先生がピュー、と口笛を鳴らした。

「意外だな」

「……みんなが色々と考えてタイムテーブルを組んでくれてるんです。歌を歌うのにステージには立たなくちゃいけないけれど、椅子に座って歌わせてもらえることのほうが多いし、ステージは三つあるけれど、私はひとつのステージでしか歌わないから移動もない。休憩時間もまとまった時間をもらえているから、そのときにしっかり休もうと思って……」

「いい心がけだ。水分補給とカロリー補給だけはこまめにしろよ?」

「はい」

 先生に褒められてしまったけれど、実のところは紅葉祭当日よりも、それまでの作業ほうが大変だった。

 一日目はライブステージがある分、かなり体力を使うとは思う。けれど、二日目に関しては、校内の見回りやクラスの出し物が中心で、突発的な何かが起こらない限りはそんなに忙しいということはない。むしろ、忙しくなるのは実行委員の人たちだろう。

 私たち生徒会には実行委員から報告が上がってくるのみに等しい。そして、膨大な作業が待っているのは紅葉祭のあと。

 すべての集計作業に取り掛かることになる。

 できる限り、クラスで帳尻を合わせるようにクラス委員や各団体に通達してあるけれど、それでもどうにもならないものは生徒会が引き受ける。

 ただ、今回はすでに充当先やプラスマイナスを動かす場所をひとつにまとめてあるため、それほど大変なことにはなりそうにない。

 全体の把握と資金の流動、それから各クラスの団体が得た収入の把握を努めればいいだけ。

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