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光のもとでⅠ 第十二章 自分のモノサシ  作者: 葉野りるは
本編
42/80

42話

 紅葉祭前日の今日はライブリハーサルの日。

「翠葉ちゃん、声出るようになったね」

「本当ですかっ!?」

 茜先輩に言われた一言が嬉しくて、つい大きな声で訊き返してしまう。

「うん! 『Birthday』を初めて合わせたあとくらいから、ずいぶんと変わったよ」

 にこにこと笑う茜先輩に言われると、もっともっと嬉しくなる。

 ミキシング担当の人からも同じようなことを言われたばかりで、胸を撫で下ろすくらいにはほっとした。

 初めて「Birthday」の歌合せをした日、奏者との顔合わせで声が震えるほど緊張していた。

 そんな私に、一緒にステージに立ってくれる先輩たちがかけてくれた言葉はどれもあたたかいものだった。

 私だけがひとり遅れてステージに上がる演出の中、昇降機が上がりきったそこには「楽しい」という空気しかなくて、私はその空気に呑み込まれるようにして歌った。

 みんなが身体でリズムを刻んでいて、心から音楽を楽しんでいるのが伝わってきた。

 それを自分も一緒に楽しみたくて、気づいたら、用意されていた椅子から立ち上がり、気持ちのままに歌っていた。

 最初こそ椅子が用意されていたわけだけれど、奏者の人たちと同じ目線で楽しみたくて、この曲は立って歌うことにした。

 それからの歌合せは、緊張よりも少し楽しみに思えるようになった。

 この心境の変化には自分が一番驚いたと思う。

 でも、今日のリハーサルはまた違う緊張があった。

 プロのバイオリニストが参加しての合わせだったから。

 これが最初で最後のリハーサル。その一度のみで完璧に合わせてくれるのだ。

 ライブで歌うものにはバイオリンの音色が含まれるものが数多くある。それらのほとんどをこのふたりが演奏してくれるのだ。

「途中ミスってアドリブが入ってもそこはご愛嬌ね」

 なんて、ウィンクするタイミングまで同じなのは、「桜の都、青天の神楽」というユニット名で知られるバイオリンユニット。

 本名は佐野都さのみやこさん、佐野神楽さのかぐらさん。

 このふたりが佐野くんのお姉さんたちとは知らなかった。

 茜先輩に渡された申請書を見たときに佐野くんのお姉さんであることを知り、心臓が止まるかと思った。

 クラッシック、ポップス、ヒーリングミュージック、となんでもこなすクロスオーバーミュージシャン。

 現在販売されているCD二枚はどちらも持っている。

 佐野くんにメールで「知らなかった」と送ったら、「あれ? 言ってなかったっけ?」と返信があって、思わず「聞いてないっ!」と電話をかけてしまうくらいにはびっくりした。

 でも、これで佐野くんが色んなジャンルの音楽に精通していることが納得できた。

 佐野くんはポップスと呼ばれるものから、ロック、ジャズ、クラシックとどの分野にも明るい。それはお姉さんたちの影響なのだという。

「プロの方たちに依頼するのに午後からとはいえ、拘束時間長いし演奏量もかなりあるのに、ふたり合わせてあの報酬で本当に良かったのかな?」

 不安に思って尋ねると、

『身内特権です。こんなときに使わずしていつ使う? それに、ただそれだけってわけでもない。うちの姉ちゃんたち茜先輩のファンでもあるからさ。協演することが目的でもある。言わば人脈作りみたいなもんだよ。今回は学校関係者とその家族しか入場できないし、入場料もとってないから大きな問題はないみたいだよ」

 そうなんだ……。

 実際のところ、会計を一任されているとはいえ、あの時期にあれ以上の金額を申請されていたら、私の独断では決められなかったと思う。

 もしかしたら、佐野くんと茜先輩はそのあたりを考慮して、金額提示してきたのかもしれない。


 この日、当日にプロのバイオリニストが加わった演奏になると知ったのは、生徒会メンバーと奏者たち。そして、ミキシング担当の人やカメラチェックに来ていた映研部の人たちだった。

 みんな唖然としていたけれど、すぐに自分のすべき作業に戻った。

 やっぱり、この学校の人たちは切り替えが早いと思う。

 歌のリハーサルのほかには当日誘導に付いてくれる人たちとの引き合わせがあった。

「翠葉ちゃんには私と高崎くんがつきます!」

 笑顔で教えてくれたのは香乃子ちゃんだった。

 空太くんとふたり揃って「よろしく」と言われた。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「うんうん、ちゃんと俺らが誘導するから任せて!」

 空太くんがポン、と胸を叩いた。

「何かアクシデントがあっても、どちらかひとりは翠葉ちゃんにつくことになってるから」

 と、香乃子ちゃんがにこりと笑う。

 知らない人に対しても、だいぶ普通に接することができるようになってきたとは思う。でも、やっぱり知っている人がついてくれるほうが心強い。

 このあたりは実行委員の配慮かもしれないと薄々気づきつつ、その配慮がとても嬉しく思えた。


 桜林館にはすでに業者さんと生徒が一緒に組み立てたステージがあり、今日のリハーサルはそのすべてのステージで行われたという。

 私は円形ステージでしか歌わないため、今までの合同練習と何も変わらなかったけれど、花道やスクエアステージが設営されているのを見て圧倒された。

 机上で見ていたものとは全く違う。実際に目にするととても大きなステージだった。

 リハーサル時にはステージにも花道にも一切の飾りつけはされていなかった。

 飾り付けの準備段階に入っているのは華道部のみで、ほかはまっさらな白いステージ。ただ、楽器のセッティングやマイクのセッティング、ビデオカメラのセッティングが終わっている程度。

 奈落のモニターもすでに設置完了していた。

 円形ステージの周りには吹奏楽部のセッティングが済んでいて、円形ステージの上ににはコンパクトグランドピアノとドラムセット、アンプなどがセッティングされている。

 円形ステージとスクエアステージをつなぐ花道の両脇には和太鼓部の太鼓の配置が済んでいた。

 和太鼓はAチーム、Bチームに分かれており、いくつかの演舞を交代でするのだとか。

 一番最後の演舞だけは、円形ステージとスクエアステージをつなぐ花道に篠笛と吹く人と銅拍子どうびょうし奏者が立ち、演奏や掛け声で指揮を取り、Aチーム、Bチーム合同の演舞になると聞いている。

 スクエアステージの周りでは、華道部が朝からずっと紅葉もみじなどの大きな素材を使った作品をいけていた。その中に生徒ではない人が三人いて、いけばなの指導にあたっていることから外部講師であることがうかがえる。

 ほかにももうひとり、私の知っている人がいた。空太くんと高崎さんのお姉さん、里実さんだ。

「ごめんっ! その器の顔はこっちなの」

 と、運び込まれた器の向きなどを生徒に指示している。

 生徒に混じってもなんら違和感がないと思ったのは私だけではないと思う。

 今日はヘアバンドでがっつりと前髪を上げた状態で、バイタリティ溢れる人に見えた。

 このあと、華道部と園芸部が総出でステージの飾り付けが始まる。それらが始まると、そのふたつの部以外はみんな桜林館から撤収させられる。

 飾り付けだって当日までのお楽しみなのだ。

 明日が楽しみ……。すごく緊張しているけど、それ以上に楽しみ。

 ついに明日なんだ――。

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