水曜日、雨の日、始まりの日。
水曜日に雨が降る。
学校が終わった後の放課後、
私は1人で傘を差し家までの道を雨音を聴きながら歩いていた。
「ねえ、知ってる?雨が降ると嫌な事が落とされるらしいよ」
「そんなの嘘でしょ」
後ろで歩いてる女子2人組はありもしない嘘話に花を咲かせているみたい。
ぽつ、ぽつ、とドシャ降りでも無い至って普通の雨。
せっかくならドシャ降り位の雨が降れば他の人の声が聞こえないのにな。
いつもの帰り道。
周りの昨日とは少し違った誰かさんと誰かさんの喋り声、笑い声。
そんな声も雨音だけになり公園を横目にただただ1人で歩く。
「琉子ちゃんだよね?」
後ろから突然呼ばれた私の名前。
突然呼ばれたせいで肩がぴくっと上がる。
雨音なんかまるで聞こえない程に響く声。
そして聞いたことがある声。
後ろを振り返る。
少しだけ水たまりに入りそうな真っ黒な運動靴。
薄めのピンクに水玉が描かれた傘を片手に
笑顔で微笑むあの子、池内葵。
いつものふわっとした少し茶色のかかった髪の毛ではなく
雨で濡れてしまったのか湿気なのかはりついたような髪の毛、
少しはねた寝癖。
丸っこい少し小さめの目。小さな鼻。小さな身体。
手にはあの子がお気に入りのアーティストのグッズのバックと
言っていた黒いバッグ。
そしてあの子の隣に立っているあの子より頭一つ分大きい広田くんが
彼の大好きだというみかんのグミの袋を片手にあの子の持つ傘の中に。
「グミ、食べる?」
広田くんが肩に雨を落としながら首をかしげながらグミを私に差し出す。
「いらない。あんまりグミ好きじゃないから」
「そっか…」
少し残念そうな声で広田くんは持っていたグミを自分の口に放り投げた。
「琉子ちゃんってこっち方面なんだね。知らなかったよ」
知ってたら逆に怖いわ、って言いたくなる言葉を喉に唾液と一緒に飲み込む。
「池内さん達もこっち方面なの?」
「いや、あっち」
とあの子が指さす方面は来た道。
「遠回りじゃない」
「そうかな?散歩って思えば何も苦は無いでしょ。
ダイエットの為とも思えばやる気上がってくるでしょ?」
まるで当たり前のように言ってくる。
「葵、そんな事を話に来たんじゃないでしょ?青島さんに」
「あ、そうだった!あたしとしたら…すっかり忘れてたわ」
あの子は雨が降る、この街の中で、紙をカバンの中から取り出す。
「琉子ちゃんはこの世界をちょっとだけ変えてみたいと思わない?」
「は?」
あの子は真顔で馬鹿みたいな
どこかの小説に書かれて居そうな文字を言葉を私に投げかける。
少しだけ雨が強くなったような気がした。
「ちょっと待って、意味が分からないんだけど」
「簡単にまとめたつもりなんだけどな…。
世界をちょっとだけ変える。んー。どうしたら分かるんだろ…」
頭に手をつき相当悩んでるみたいだ。
そこからきっと数秒経った後にあの子はこういった。
「あたし、悠真、結奈ちゃん、陽翔、そして青島琉子ちゃん。
この5人で歪んでなさそうな歪んでる世界を変えようか!って事」
「…待って、私、もう入ってるの?」
あの子は笑顔で「そう!さすが琉子ちゃん!」と言った。
その時雨音は一瞬消えたかのように静寂の中ではっきりとあの子の声は聞こえる。
「結奈ちゃんと陽翔にはもう了承得てるから大丈夫よ」
私には拒否権というものは最初から無いようだ。
あの子はさっき取り出した紙を私に渡す。
「それに名前を書いて明日の放課後に図書室に来てね」
それだけあの子は言いきると、
「悠真、帰るよ。あたしもうお腹空いちゃったよ」
と言いピンク色の傘はどんどん見えなくなっていった。
雨は少しだけ止んだみたいだ。
上を見上げると丁度烏が2匹飛んでいて、
私を嘲笑うかのようにただただ鳴いていた。