目の前のあの子
目の前のあの子はちょっと変わってる。
いや、ちょっとどころじゃなく結構変わってる。
「ねえ、悠真?」
目の前のあの子はわざわざ2つ前の席の広田悠真に話しかける。
2人は幼馴染、みたいな関係らしい。
実際の所、あの子と広田君の関係は誰にも分からない。
唯一分かる事はあの子は広田君の事が好きで好きでたまらないのか
広田君だけが自分の全てなのか、とりあえず広田くんの事が大好きだって事。
広田君はあの子の呼びかけに応える事も数秒経っても無く
無視してるのか広瀬君から見て3つ後ろに座る私には一切分からない。
それでも目の前のあの子はよく分からないリズムを刻んで
身体をゆらゆらと動かしていた。
「葵ちゃん、今何の時間だと思ってるの…?」
「んーと、悠真とお喋りする為の時間、かな?先生。」
あの子はまるで語尾にハートマークでも付きそうな声で答える。
ちなみに今はもう少しでお昼の時間になりそうな高校の教室。
世界史の先生はあの子に注意しながら広田君を起こしている。
授業プリントを見ながら私は溜息を吐く。
ドラマや映画、本の中の世界、
テレビの奥の華やかそうな世界とは程遠い至って普通の世界。
そう、私が住んでる国の裏側では戦争が起き死んでいる人が居て
今この瞬間も誰かがきっと自ら命を絶ち
今先生が少しでも動こうとすれば「体罰」だと言われ生徒の言われるがままになったこの世界。
これが「普通」だなんてよく言えるな、って私は何故か今思った。
どこかではえんぴつをドラムスティックにみたて机を叩く子がいる。
どこかでは眠いのに我慢しているのか首がこくっとなってる子。
それでもあの子は何が楽しいのか周りの私達にとっちゃ分からないが
ゆらゆら身体をゆらし変なリズムを刻んでいた。