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第6話

「記憶障害が出てもいいのなら30日ほど、安全に帰るとなると……その10倍だな」

「記憶障害といってもごく短期間の記憶に限られます。具体的に説明すると、クリス様に魔王様の魔力が入りこんだ時点から送還されるまでの記憶、つまりフリアードで過ごす記憶がそのまま失われることになります」


カルナックの説明をローシャが引き継ぐ。


「ちなみにフリアードの1日は8万6400秒。秒の感覚はこのくらいです……1、2、3……」


時間の概念が地球とフリアードでは違うだろうと想定し、こと細かに説明するメイド長兼近衛隊長。

その気遣いには感服するが、『秒』という言葉や長さまで地球とまったく同じというのは出来すぎな気がする。


試しに尋ねてみると、『分』や『時間』という概念もしっかりと存在していた。


「とにかく、1か月経てば地球に戻れるんだな?」


1か月もの間、地球では消息不明扱いになるのはいただけないが、そこは心配してもどうしようもないか。


「え~。元の世界に戻るのか? せっかく弟分ができたと思ったのによ」

「クリスにゃんをにゃーのネコにしようと思っていたのにがっかりだニャ。だけど、フリアードでの記憶が消えるのなら、その間にむりやり襲っても問題ないかニャ?」


純粋に好意を向けてくるミルと、欲望を向けてくるカッツェ。

片方の気持ちは嬉しくあるが、


「ちなみに、にゃーはネコミミ・ネコ尻尾が生えているけどタチ専門ニャ」


もう片方の気持ちは迷惑このうえない。


「かような訳で、そなたが望むならひと月の後、元の世界に帰すことを約束しよう」

「ところでその1か月間、俺はどうやって過ごせばいいんだ?」

「こちらの都合で呼び出したとはいえいつまでも客人として養っておくわけにはいかぬ。寝床と食事を提供する代わり、最低限度の労働をしてもらうが構わぬか?」


働かざる者食うべからずという格言は、どこでも同じだということか。


「それくらいなら構わない。さすがにタダ飯ぐらいというのは居心地が悪いしな」


アルバイトの経験はそれなりにある。掃除や荷物運びなどは手慣れたものだ。


「ただし、さっきも言ったが俺はただの人間だ。過剰な期待はしないでくれよ」

「もちろんだ。では早速だが、四天王の一員として働いてもらうぞ」

「俺の話聞いてた!? 大したことできないつったろ!」


雑用係を想定していた栗栖にとって、カルナックの言葉は寝耳に水だった。


「心配するでない。四天王などただの飾りだ。非常時には敵の軍勢を相手にするのが仕事だが、いまの平和な状況であればすることは全くないぞ」

「お飾りの欠員をわざわざ異世界から呼び寄せたのかよ!」


ヒートアップした栗栖に対し、ローシャが講釈する。


「いかに四天王が名前だけの役職とはいえ、就任するためにはそれなりの資格が求められます。先ほど退席されたスクブス様は先代の魔王。カッツェ様は獣人族の族長にして、魔族武術養成所――通称ネコの穴の元最高責任者ですし……」


「あのバアさんが先代の魔王って絶対ウソだろ! 

ゲイのオッサンが関わってると『ネコの穴』って卑猥に聞こえるんだけど!

つうか、よくよく考えりゃ四天王って天下り先じゃねえか!」


「……クリス様が座っているミルは龍族の皇女です。四天王として、これほど錚々たる顔ぶれの魔族と肩を並べるには、そこいらの魔族では無理なのです」


栗栖の三段ツッコミは華麗にスルーされた。


それにしても、ローシャは何故ミルに対してだけ呼び捨てなのだろう?

栗栖が違和感を覚えて首をひねっているところに、カルナックが、


バンッ!


と円卓に両手をつき、勢いよく頭を下げようとして、


ガツン!


と彼女の上に座っているローシャの後頭部に額をぶつける。


「…………」


痛みによるものか、無表情のまま涙を流すローシャ。


「クリスよ……クンクン……ローシャが申したとおり、余が異世界から召喚した人間であれば……スーハー……四天王として君臨しても下々の魔族は不満に思わぬだろう……モフモフ……そなたが元の世界に戻るまででよい……はむはむ……力を貸してくれ」

「分かった! 四天王を引き受けるから頭を上げてくれ!」


栗栖は頼まれたらイヤと言えない典型的な日本人だ。

同じように頭を下げられ、生徒会副会長を引き受けてしまったときのことを思い出す。


もっともそのときは、今のカルナックのように頭を下げるフリをして、美少女メイドの後頭部に顔をうずめ、匂いを嗅ぎ、髪の毛をかみかみしながら懇願されたわけではないが。


「まことか?」

「ああ、引き受けるから今すぐローシャの後頭部から頭を離せ! 正面から見てると、表情を変えないまま瞼をピクピクさせてるローシャが怖いんだよ!」


たしかにこんな事ばかりしている魔王なら、女性からの支持率ゼロパーセントも頷ける。


女性限定で言えば、混沌よりも這い寄る過負荷よりなおタチが悪い。


「短い間ってのが残念だけど、よろしく頼むぜ、クリス」


ミルが前脚を栗栖の頭に乗せ、乱暴に撫でる。


「そうと決まれば、歓迎パーティーを開くニャ。クリスにゃん、今夜は寝かさないニャよ」


カッツェは大胸筋を動かし、剥き出しの分厚い胸板を動かした。


「失礼します」


そこにローシャと同じメイド衣装を纏った少女がやってきて、カルナックへ耳打ちをする。


「残念だが、クリスの就任祝いは初仕事をおえてからだ」


報告を受けたカルナックは、四天王の盛り上りへ水を差す。


「勇者が余を倒すために魔族領に入り込んだそうだ。これを討伐するぞ」

「……はい?」



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