神様 過去を語る
さて、もうすぐ、今年も終わろうかと言うこの時間…琴葉と香恋は、こたつに入ってみかんを食べていた。
「人間としての年越しね~懐かしいわ…。」
「そう言えば、前々から気になってたけどさ…琴葉って何で神様になったの?」
香恋が最初、琴葉に出会った時は、琴葉は生まれながらにして神様なのだと考えていたのだが、直弘に神の座を押し付ける必要性があったことを考えると、琴葉も誰から譲られたと考えるのは自然であった。
そうなると、琴葉の前任者、または、琴葉を初代に任命した人間がいるはずである。その人物のことも気になっていた。
「私が神様デビューしたときか…そうね…確か、私が神になった時、あなたと同い年だったからしら…」
私が生まれたのは、記憶が正しければ、1990年の9月…東京郊外にある病院での誕生だった。
年齢は1500歳じゃなかったのか? と言う疑問に関しては、少しあとに答えさせてもらうわ…
琴葉…残念ながら、苗字は思い出せないけど、それが私の名前…由来は覚えていないんだけどね…
それから私は、普通の家庭を持ち、普通の学校に通い、普通の生活を送っていた…あの日までは…
2008年12月某日…
その日は、久しぶりに雨が降っていて、肌寒かった。
「もー何で、お母さん起こしてくれなかったんだろう!」
その日は、前日の夜に目覚まし時計をセットするのを忘れた関係で、遅刻寸前に陥り学校まで走っている途中であった。
学校の前にある歩行者用信号は、赤だったのだが、私は、構わず渡り始めた。
いつもなら、止まるのだが、このまま走れば、滑り込みセーフであろう…
そんなことを考えていたのだが、せめて左右の確認ぐらいはすべきだったのだろう…
大型トラックのクラクションと急ブレーキの音、そのすぐ後に大きな衝撃で遠くの方へ跳ね飛ばされた。
無理に信号を渡ろうとしたため、トラックに轢かれてしまったのだ…薄れ行く意識の中で見えた物は、駆け寄る運転手と、緊迫した様子で電話をかけている歩行者の姿だった…
「ここは…どこ?」
私は、知らない場所で目覚めた。
自分がタイムスリップをして、1500年ほど昔に飛ばされたという事実を知るのは、少しあとだった。
理由はよくわからないが、自分の体がなんともないことを確認すると、当然ながら、ここはどこなのだろうか? と言う疑問に到達した。
「我、ここにありて、我は、すべてを語る語り部なり。」
突然、そんな声がした。
自らの記憶が正しければ、周りに人影はなかったはずである。
「あの…どちら様でしょうか?」
人がいなかったはずだとの考えを捨てきれずに、確認程度のつもりで後ろを振り向くと底には、これまで見たことがないほど、異質は雰囲気をまとった女性が立っていた。
黒色の髪は、地面に着くか着かないかと言うぐらい長く、顔に関しては、理由はよくわからないのだが、しっかりと確認できなかった。
「我が語るは、我の物語の序章なり。我の言葉に耳を傾けよ。ことが動くは、先のことなるが、すべてにおいての準備は、しておくものなり。故に我の言葉に耳を傾け、我の意向に沿い、我を崇めよ。すべての舞台は、お主が現に生きていた時代より後に造られる。」
その後、私は、その女性から新たなる神に任命されて、1500年もの間、それを務めた…
「…これで終わりよ…まぁ1500年の間にもいろいろあったんだけど、それについて語ると、大みそかはおろか正月も終わっちゃうだろうから…。」
琴葉は、再びみかんに手を伸ばした。その横で香恋は、みかんの皮を前に先ほどの話を整理していた。
(まず、琴葉の出生は、1990年の東京郊外…ここまでは問題なさそうね…問題は、その次…タイムスリップ…そして、謎の女性…任命されたっていう言い方だと、譲られたわけではなさそうね…なぜ、1500年前なのだろうか? それに、女性の言葉の中にあった、琴葉の生きていた時代より後…つまり、2008年12月以降に出来上がる“舞台”ってなんのことを指しているのかしら…。)
疑問は、増えていく一方である。
琴葉に聞いてみようかとも考えるが、あまり詳しく語らなかったところを見ると、触れない方がいい部分なのかもしれない…
器用にみかんの皮を鳥の形に向いている琴葉を見ながら、香恋は、ありとあらゆる推理をめぐらしてたのだった。
「我の舞台は整いけり。後は、主役の登場を待つのみなり。」
日本のどこかで、そんなことをつぶやいている女性がいた。
読んでいただきありがとうございます。
2012年もいよいよ終わりを迎えようとしています。
皆様にとって、今年はどのような1年だったのでしょうか?
それでは、よいお年を!
来年もよろしくお願いします。