神様 神社へ行く
晴郷村から少しだけ離れた小高い丘の上にある晴郷神社…
この神社の境内に琴葉と香恋がいた。
「琴葉! もーどこ行ってたのよ! 人間になったらなったで無事だって言ってくれないと!」
到着した直後に、光葉が現れた。
光葉は、本当に心配してくれていたらしく、目に涙を浮かべていた。
「まぁまぁ…先代さまもご無事ですから、問題ないでしょ?」
光葉の後ろから少年がやってきた。
少年は、烏帽子をかぶっているのだが、服装はと言うと、なぜか洋服である。
「烏帽子に洋服って…どんなセンスよ…。」
「まぁまぁ…それは、きっと気にしちゃいけないことなんだよ! そんなことよりも、昨日の夜中、怪しい二人組が来ていたけど、先代さまの知り合い?」
香恋の意見を軽くスルーして話し始めた彼こそ、琴葉の跡を継いで神様となった井上直弘である。
しかしながら、香恋は、自分が抱いていた想像と実際に対面した直弘との違いに少し驚いていた。
直弘は、格好こそ妙であるが、すらりとした長身で顔も整っていてイケメンの部類に入っていた。
「どうかしたのですか?」
「いっいえ…何も…。」
直弘に話しかけられて、香恋は、すぐさまそう答えた。
「…それはいいとして、先代様…お知り合いですか?」
直弘に迫られて、琴葉は、顎に手を当てて考え始める。
どうやら、これは、琴葉の癖らしく、考え事をするときは、よくやっている仕草だ。
「残念ながら、知らないわ…特徴をまともに聞かないで答えを出すのも早計かもしれないけど、少なくともこそこそと尋ねてくるような友人は知らないわ…。」
「そうですか…まぁいいでしょう…。」
少年は、ふわっと浮き上がると、香恋たちに自分たちの方に来るように促した。
香恋たちがついていくと、そこは、神社の裏山であった。
「ここに何があるの?」
「いえ…先代さまとゆっくりとお話しがしたいというだけで、それ以上のことはありませんよ…。」
香恋の印象としては、本当にこの少年が自宅で「俺は神になるんだ!」などと言っているような人間だとは思えなかった。
もしかしたら、何かの手違いや誤解ではないかとまで思っていたのだ。
「俺は神になったんだ…だが、イメージと違うことも確かだ…仕事内容の詳しい説明を先代さまの口から聞きたかったから、わざわざここまで移動したのですが…お聞かせ願いますか?」
直弘は、唐突に口を開いた。
どうやら、琴葉は、直弘に仕事内容を一切伝えていなかったらしい。
琴葉は、少し考えた後に分厚い本を直弘に手渡した。
「えっと…これは、なんですか?」
「見ての通り、マニュアルよ…ごめんね、渡すのすっかり忘れてたわ…。」
「神様にマニュアルとかあるの! っていうか、分厚すぎでしょ!」
直弘が受け取った本は、見たところ1000ページぐらいはあるように見える…意外と分厚いだけで、中身がないのかもしれないが…
「こういうものは、早めにくださいよ…えっと…まずは…」
直弘が読み始め、香恋は、横からそれを覗いてみた。
「神様マニュアル! 神様入門編 これで君も神様だ!」
1.よくある質問
Q1.そもそも神様ってなんですか?
A1.なんかむっちゃすごい人たちの事を指します
Q2.なんかむっちゃすごい人たちの定義を教えてください
A2.そのまんまの意味です
「わかるかい!」
そこまで読んだ香恋が大声を張り上げた。
「むっちゃすごいって結局どう言うことよ!」
「そのまんまの意味に決まってるでしょ?」
ダメだこりゃ…こんな内容であるにもかかわらず直弘は、マニュアル(?)を黙読し続けていた。
「まぁ続きも見ないとわからないわね…。」
香恋は、再びマニュアルを読み始めた。
Q3.神様になるために必要な知識ってありますか?
A3.基本的には、別冊の「神様マニュアル! 神様実践編 これで君も神様だ!」をご購入ください
Q4.先ほどの質問の答えで出てきた本の購入方法を教えてください
A4.本屋に行ってください
Q5.お値段は?
A5.本屋に行ってください
Q6.神様が必ずやるべきことは
Q6.本屋に行ってください
「…私が、神様になるわけじゃないけど、これだけ言わせてもらっていい?」
「何?」
「このマニュアルって、ずっとこの調子なの?」
香恋が聞くと、琴葉は、すぐにうなづいた。
先ほど言ったように、この本は相当分厚い…
この調子だと、Q何まであるのだろうか…
「これってさ…どれだけ質問があるの?」
香恋が恐る恐る聞くと、琴葉は、真顔でこう言い切った。
「えっと…最低でもQ1,000,000,000,000,000ぐらいまであったかな?」
「最低でも千兆って質問がありすぎでしょ!」
香恋がそう言うが、琴葉は動じることなくこう切り返した。
「まぁこれだけあれば不満はないよ…98パーセントぐらい同じ答えだけど…。」
このマニュアルで、彼がしっかりやって行けるのか心配なのは、私だけなのだろうか…
香恋は、どんよりとした雲を見ながらそう考えていた。
読んでいただきありがとうございます。
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