神様 居候する
晴郷村を見下ろす位置にある晴郷神社…のすぐ近くにある一軒家…
「ただいま!」
香恋は、扉を開けて家の中に入る。
「その…お邪魔します…。」
「ただいまでしょ? 今日から、あなたもここに住むんだから。」
「わかった…たっただいま…。」
琴葉は、香恋の後ろについて家の中に入って行く。
香恋は、この家で父と母、姉の四人暮らしである。
どうやら香恋は、この事態を予測していたらしく、すでに話が付けてあったらしい。
リビングに入ると、部屋の中央に置いてある青いソファーが2つ、机を挟むような形で置いてあり、40代ぐらいの女性と20ぐらいの女性が向かい合うように座っていた。
「ただいま。母さん、姉ちゃん、昨日行ってた女の子連れてきたよ。」
香恋がそう言うと、二人は、香恋の方に歩いていき、後ろに隠れている琴葉を見た。
「あなたが、琴葉ちゃんね! 結構かわいいじゃない! あーそうそう、私は、香恋の母の璃子よ。」
「あらあら本当ね…結構かわいいじゃない…それと、私は、香恋の姉である恋歌…よろしく!」
璃子と恋歌がそれぞれ名乗ると、琴葉はちょこんとお辞儀する。
そして、少し緊張気味なのか、硬い感じになりながらもこう言った。
「初めまして…神名琴葉です…これからお世話になります。えっと…璃子さん恋歌さんですね…。」
横でやり取りを聞いている香恋は、自分と話すときとの違いに少々驚きはしたが、琴葉の元々の性格を思い出して納得する。
「それにしても、こんなかわいい子だったらいいかもね…。」
「そうだね…まぁ姉としては、妹が百合思考の持ち主でも妹であることは変わらない…いや! シスコンになるように再教育するまでよ!」
「何言ってるのよ! 香恋は、絶対にマザコンにして見せるんだから!」
なぜか、香恋は、二人にとんだ誤解をされているらしい…
そう言う関係じゃないし、私は、百合思考は持っていないと言いたかったが、とてもじゃないが、そんな雰囲気ではない。
どうやら、琴葉が家に来るというのは、思わぬ形で新たな火種を産んだようだ。
「香恋…マザコンとかシスコンとか百合とか何言ってるの?」
ここで、変なところで知識がない神様が更なる爆弾を投下してしまった。
「知らないなら、あなたに知識を…いえ、この際、香恋や恋歌じゃなくてもいいわ! あなたを立派なお母さんっ子にすればいいんだわ!」
「いーえ! 私がどこの家庭にでもいるシスコンにするの!」
(シスコンがどこの家庭にもいるってことはないと思うんだけど…現に私そうじゃないし…。)
香恋は、そう思っていたのだが、口に出せるわけがなく、黙っているしかなかった。
「今の時代はシスコンよ!」
「違うわ! マザコンの全盛期はまだ続いているのよ!」
(マザコンの全盛期って何? それに、シスコンの時代も来てないでしょ! 多分…)
香恋は、二人のやり取りに突っ込みそうになるのをぐっとこらえる…
この過程においての杠葉家に置いて唯一の常識人である香恋には抑えられないので、父が帰ってこない限り、この議論に終わりはないのかもしれない…
「はぁ…琴葉、私の部屋に行く?」
「うん…なんか、そうしないといけない気がしてきた…。」
琴葉と香恋は、二人に気づかれないようにこっそりと部屋を出て、二階にある香恋の部屋に向かった。
結局のところ、璃子と恋歌のけんかは、約1時間後…香恋の父優大が帰って来るまで続けられたという…
「まったく…お母さんもお姉ちゃんも二つ返事だったから、怪しいとは思ってたけど、やっぱりこう言うことになった…。」
琴葉は、聞き捨てならないことを聞いていしまった気がするのだが、それは気のせいだと自分にいい聞かせて香恋の部屋に入って行った。
香恋の家から歩いてすぐの場所にある晴郷神社…そこの境内にサングラスをかけた小太りの男と長身で痩せた男が立っていた。
二人ともなぜか、黒い服を着ており、何かを探しているようにも見える。
「やはりないですぜ…あれはおろか、あいつもいません…。」
サングラスの男がそう言うと、長身の男は、神社の建物を見ながらこう言った。
「…あれを持って逃げたか…だが、そう遠くへ行ってることはないだろう…。」
「しかし、あれほど慎重に行動したのに気付かれたんでしょうか?」
「さぁな…まぁ偶然どこかに行っていて、この場にいないの方が正しいのかもしれねぇな…また、出直すぞ!」
長身の男が早足で階段の方に向かうと、サングラスの男は焦った様子で追いかけていく。
「待ってください兄貴!」
「さっさと来い!」
長身の男は、それだけ言うと、足早に神社から立ち去った。
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