神様 学校に行く
ここは、私立桜郷高校…この学校に通う香恋は、空を見ながら昨日のことを思い出していた。
「結局、昨日は帰ってこなかったな…。」
あの後、日が暮れるまで光葉と神社の屋根の上でお茶をしていたのだが、琴葉は帰ってこなかった。何でも、自身もいろいろ手続きをするらしい…
帰ったら、また、神社でのんびり光葉とお茶でもしながら待ってみようかな…香恋がそんなことを考えている横で…
「ちょっと…杠葉が元気ないわよ…何かあったのかしら?」
「もしかして、恋とか?」
「マジぃ~あの、杠葉が?」
どうやら、香恋が空を見上げてため息などついているものだから、余分な疑念がついてしまったようだ。
「恋とか、そう言うのじゃないわよ!」
「ひゃー聞こえてた!」
「逃げろ!」
香恋が、思い切り机をたたきながら立ち上がる。
先ほど、噂話をしていた女子生徒以外の周りにいた生徒たちも、蜘蛛の子を散らすように香恋から離れて行った。
「まったく…何なのよ。」
原因が彼女自身にあると自覚していない香恋は、席について窓の外を見始めた。
10分ほどすると、先生が教室に入ってきて、ホームルームが始まった。
「今日は、転校生を紹介する!」
担任の三ツ川義男がそう言うと、教室がざわめき始めた。
「転校生だってよ!」
「成子、どう思う?」
「…」
「無理に故事成語使う必要はないんやで…。」
「静かに! さぁ入ってこい!」
先生の一声に、教室内が一気に静まり返る。
すると、前の扉があいて、一人の女子生徒が入って来た。
「えっと…神名琴葉です…よろしくお願いします。」
高校1年生の2学期の終業式目前…神様が転校してきました…
「お前は何をしてるんじゃー!」
香恋の叫び声は、校舎の外…とにかく遠くまで響き渡っていたという…
休憩時間にもなれば、琴葉の周りには、人だかりができ、質問の嵐となっていた。
「ねぇねぇどこの高校から来たの?」
「出身地は?」
「好きなカレーの種類は?」
「今度お茶しない?」
質問と言っても、このクラスの場合、約50%(主に男子が)まともな質問をしていない気がするのだが…そんなことはさておき、香恋は、そんな嵐のど真ん中にいる琴葉の手を引っ張って教室を出た。
「痛いって! 何するのよ?」
「ちょっと人がいないところで話するわよ!」
今は、昼休みのため、昼食を取ったりする関係上、長い時間教室を出ることができる。
香恋は、いつも自分が昼食を食べている屋上へと彼女を連れて行った。
「へーなんだか、神社にいるみたい…。」
琴葉は、走ってネットの方に向かい…ぶつかった。
「今、通り抜けられないでしょ? 付け加えると、ネットがなかったら重力に引っ張られて地面とキスすることになるわよ…。」
「ごめんごめん…なんだか、慣れなくて…。」
琴葉は、バツが悪そうに頭をかいている。
桜郷高校自体は、3階建てなのだが、周りが古い住宅街で、平屋建ての建物が多いため、高校の屋上からは、少し遠くにある桜郷前駅や生徒たちの間で駅向こうと呼ばれている新興住宅街を望むことができた。
「それで…説明してもらいましょうか?」
「何を?」
「琴葉が神様になった本当の理由よ…子供と遊びたいからなんていくらあんたでも幼稚すぎるでしょ?」
香恋が聞くと、琴葉は、少し間を開けてからこう答えた。
「…子供と遊びたいって言うのは本当よ…まぁ容姿がこれだから、それはちょっとあきらめてたんだけどさ…その…本当の理由は、また、話せる時でいいかな?」
琴葉がそう言うので、香恋は追求することなく、もう一つ気になっていることを聞いてみることにした。
「ところでさ…琴葉は神様じゃなくて人間だよね…どこに住む気?」
そう、今の琴葉は、神様ではなく、人間の神名琴葉なのだ…となると、今まで通り神社にいるわけにもいかないので、家が新たに必要になってくる。
「えっ? えーと…。」
琴葉は、顎に手を当てて考え始めたのだが、結論に至るまで1分もかからなかった。
「忘れてたー!」
考え始めてから数秒後、琴葉の叫び声が学校中に響くこととなるのだった。
そんな二人を屋上に通ずる扉の向こうから見ている女子生徒が二人…
「…知音。」
そう言ったのは、1年R組の古時成子。前髪が長く、なぜか、他人を寄せ付けない雰囲気がある。
「チーンってスズなんてどこにあるんや?」
成子と一緒にいたのは、同じく1年R組の町瓦みな子。成子の唯一無二の親友(と言うか、成子とまともに話せるのは、みな子のみ)である。
「違う…心の通じ合った親友ってこと…。」
「なるほどな…言えてるかもしれへんな…。」
成子の言うことに納得しながら、みな子は、二人の様子を見ていた。
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