神様 決意する
神社の裏…そこには、柱にもたれかかっている香恋と相変わらず正座している琴葉がいた。
「それで…お話と言うのは?」
「そんなにかしこまる必要ないわよ…聞きたいのは、さっきの叫び声よ! おかげで、真琴にもらったお皿を落としちゃったじゃない!」
そんなこと知らんがな…完全に八つ当たりだと判断した琴葉は、先ほど謝って損だったと考えていた。
香恋が突出しているお皿を見る限り、多少のヒビは入っているが、割れていたりはしていない。
「それだけなの?」
「まぁこれは冗談として…なんなの? さっきの叫び声は?」
「それがさぁ…」
琴葉は、香恋に悩みを話し始めた。
「…なるほどね…なんか、いつもの変なアイテム使って普通の人間にも見えるようになれたりしないの?」
「って言われてもなぁ…知っての通り、私は、縁結びの神様だから、基本的にはそっち系の道具しかないのよね…それに、神様が誰にでも見える状態で町をうろついてたらまずいでしょうが!」
琴葉の言うことはもっともである。
琴葉は、自らの能力で記憶を調べた後にアイテムを使って恋愛イベントを誘発し、恋愛を成就させるというスタイルなのだが、悲しいことにこのアイテムが意外と高いので、必要最低限の量しか、持っていないのだ。
「アイテムって意外と高いのよね~仮に、香恋の言うようなものがあったとしても結構値が張ると思うな…。」
「まぁネット小説とか見てると、ある日、神様に呼び出されてどーのこーのなんてのもあるけど、現実にはそんなうまく…」
「その手があった!」
琴葉が勢いよく立ち上がる。
ここにきて、香恋は悟った。
自分は、とんでもない知識を吹き込んでしまったのではないかと…
「香恋! 相談に乗ってくれてありがとう! またね!」
「またねって…どうしよう…。」
神社の壁を抜けて勢いよく去って行く彼女を追いかけられるわけもなく、香恋は、呆然と立ちすくんでいた。
それから数十分が経過し、神社の屋根の上で光葉と香恋がお茶をしていると、琴葉が帰ってきた。
「それで、琴葉は何をやってきたの?」
「あーうん…ちょっと、町の方へ行って、「俺は神になるんだ!」とか、家で言っていた少年に神の座を譲ることになりました。」
「えっ?」
香恋の予感は当たっていた。
そう、おそらく琴葉は、何かしらの方法を使って、他人を自分の方に引き込み、その人に神の座を押しつけてきたのだ…
「ってあれ?」
この時、香恋は、何かに気づいていた。
だが、さすがに人選はまともだろうなどと考えていたのだが、光葉と琴葉のやり取りを聞いているうちにそれが覆させられた。
「ふーん…神になりたい人もいるのね…他に何か言ってたの?」
光葉は、少年に興味を持ったらしく、琴葉から少年の事を聞き出し始めた。
「そうね…たとえば、「俺の右手がうずくぜ」とか、遠くの方を見て「あいつが…来る…。」とか言ってたかな…。」
確定だ…香恋は、終わったとまで思っていた。
譲るにしてももう少し人を選べなかったのかと言う疑問は、この神様には、愚問なのだろう…
「へーずいぶん変わったやつを連れてきたもんね…。」
「うん、面白かったから、その人に決めちゃった!」
神様は、八百万いて、その数だけ個性がある…らしいのだが、これはさすがに問題があるもではないかと思ってしまった。
確かによく神話に出てくるような有名な神様から、ひっそりと暮らしている神様、光葉のように各地を旅している神様など、一口に神様と言っても様々な御仁がいる。琴葉に連れられて、神無月に出雲大社に行ったときなど、色々な神様が集まっていて、それはそれは、すごい状態だった。
「あれ? わかりにくかった? じゃあ、もっと端的に言うわね…私、神様やめます!」
どうやら、香恋が一言も発しないので理解していないのかと誤解したのか、琴葉は、ない胸を張って宣言した。
「はぁ…これからどうなるのやら…。」
香恋は、琴葉の態度にあきれつつ、ため息交じりに空を仰いだ。
読んでいただきありがとうございます。
次回より、琴葉の人間生活がスタートする予定です。
これからもよろしくお願いします。