神様 憧れを抱く
ここは、神社の屋根の上…この神社の屋根の上に琴葉は、体育座りで下の方を眺めながら座っていた。
「琴葉! やっぱりここにいた…。」
光葉が屋根の上に上がってきた。
光葉は、この神社が気にいったらしく、あれからよくこの神社に来ていた。
「横座らせてもらうよ。」
「うん…。」
とても明るい性格の琴葉が体育座りをして、ボーと空を見上げているものだから、どうにかしてほしいと去るお方から頼まれたため様子を見に来たのだが、どうやらそれは、本当のようだ。
「どうかしたの? あんたらしくもない!」
光葉が彼女の背中をポンとたたくが、琴葉は、ため息をつくだけで何も答えなかった。
いたずら好きの琴葉が、体調不良を装って何かを仕掛けることを警戒していたのだが、それもなさそうだ。
「ねぇどうしたのさ? 悩みがあるなら話しなさいよ!」
「あれ。」
琴葉は、つまらなさそうな声で境内にいる子供たちを指差した。
子供たちは、雪合戦をしているようで、境内を走り回っている。
「いいじゃないの、あれぐらい…子供なんだから、多少は我慢を…」
「違うよ…そう言うことじゃないの。」
琴葉は、立ち上がって光葉の言葉を否定する。
じゃあ、どうしたのかと首をかしげる光葉に対して琴葉はこう言い放った。
「一緒に遊びたい!」
これを聞いた瞬間、光葉はぽかんと口を開けてしまった。
「もしもーし…今、よく聞こえなかったからもう一度言ってくれると助かるんだけど…。」
「だーかーらー! あの子たちと一緒に遊びたいの! いっつも見てるばっかでつまらない!」
子供たちの方を指差して、琴葉ははっきりと宣言した。
その様子を見て、光葉は、笑いを抑えられなかったのか、腹を抱えて笑い出した。
「あっはっはっはっはっはっ! 一緒にって、あんた何歳よ! あっはははは! おなか痛くなってきた!」
「1532歳と6か月よ! 何か悪い? って言うか、そこまで笑う必要ないでしょ!」
顔を真っ赤にして怒鳴る琴葉を横目に、光葉は笑い続けていた。
そして、ようやく笑い終えたと思った時の一言がこれであった。
「大体、一緒に遊ぶってどうするのさ? 普通の人間は、あんたの姿を見ることすらできないのよ?」
「あっ!」
琴葉は、大事なことに気づいたようだ。
何に気づいたのかは、大体わかるのだが…
「そーいえばそうだった!」
先ほどまでの光葉の笑い声の代わりに彼女の叫び声が響いたのだった。
「はぁ…。」
「(あちゃーまた、落ち込ませちゃったか…仕方ない…。)私は、これから少々用事があるので御暇します。」
「待ってー! なんかいろんな意味で置いてかないで!」
帰ろうとする光葉の着物の袖を琴葉は、必死につかむ。
光葉は、自分での解決は無理と判断し、応援を呼ぶために無理やりにでも行こうとしたのだが、相当強い力で引っ張っているらしく、前に進むことさえ叶わなかったのだが…
「琴葉! 何やってるの!」
下から聞こえてきた声にまるで、琴葉の周りだけ時間が止まってしまったかのように、彼女の行動がピタリと止まった。
「痛っ! ちょっと、急に離さないでよ…。」
唐突に力が緩められたので、先ほどまで前に向けて力を入れていた光葉が勢いよく下へ転げ落ちる。だが、彼女も神様である怪我一つなく普通に立ち上がった。
「まったく…相変わらず人騒がせな神様ね…琴葉! 今すぐ降りてきなさい!」
「はっはい…。」
そんな光葉には目もくれず琴葉は、まるで、油が十分に刺されていない機械のようにぎこちない動きで下へ降りてきて、鳥居の直下で仁王立ちしている黒い髪の少女の前に正座した。
「それで…言うことは?」
「…ありません…。」
少女が琴葉を思い切りにらみ、琴葉は、蛇にでも睨まれたかのように動きを止める。
「言うことは?」
「ごめんなさい!」
琴葉が、地面に穴をあけるような勢いで土下座をする。
この神様に土下座をさせてしまったこの少女こそ、琴葉が出会った唯一の例外杠葉香恋である。
どうやら、学校帰りに寄ったらしく、学校の制服である茶色のブレザーと緑と赤のチェック柄のスカートを着用している。首には、灰色のマフラーが巻いてあり、手には緑色の手袋をしていた。
「それで…何で怒っているのでしょうか。」
香恋は、普段は温厚な性格(本人談)なのだが、怒るととても怖いのだ。
「ちょっと、こっちで話するわよ。」
「ちょっ光葉! 助けて!」
光葉は、琴葉が引きずられていくのを黙って見ているしかなかった。
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