第十章【5】
「ちょっと、失礼するよ」
そういって、医師は、シーツをめくった。
やはり、ワタシは、"大"の字に拘束されていた。
右腕の手首の少しうえあたりには、点滴のチューブが白いテープで止められている。
ワタシは、薄い生地の半袖の病院着を着せられていた。
甚平のように腰のあたりが紐で結ばれていた。
丈は、短く膝小僧が見えている。
「あー、よかった。手首の傷、随分良くなっているね」
医師はそういって、ひも状のもので拘束されている手首を撫でながらいった。
この医師は、ワタシの施設内での様子を把握しているのだろうか?
尋ねようとしたが、相変わらず、ジンジンと喉が痛んだ。
医師は、そんなワタシの様子に気付いたのか、視線をこちらに向けた。
「君は、格別に綺麗な四肢をしているよねぇ」
右の太ももあたりから、膝にかけて医師が手を這わせた。
ゾクリと悪寒がした。
「ここにくる少し前、爪の手入れをしてもらっただろう?あれは、私のリクエストなんだよ」
おかしい。
この医師は、明らかにどこか、おかしい。
ワタシは、まだぼんやりとしている頭の中で、この医師の言葉を反芻していた。
おぼろげながら、その時の様子が思い出されてくる。
そうだ。
確かに、ワタシは、ワンさんに、爪の手入れとヘアカットをしてもらっていた。
ワンさんが、唐突に大きなバックを持ってきたので、記憶に残っていた。
いよいよ明日からまた悪夢が始まるのかと、陰惨な気分で、短くカットされてゆく鏡の中の自分を見ていた!
「私が君に会ったのは、この病院がはじめてじゃないよ。でも、多分もう忘れているよ」
ワタシは、懸命に記憶を手繰り寄せていた。
医師と目があった。
ワタシは、突然この医師の眼光に思い当たった。
医師の瞳は、ワタシが相手をさせられてきた連中と同じ色を宿しているに違いなかった。
狡猾で高圧的で残忍な、人を人とも思わない者たちがまとっている酷薄な冷たい瞳だ。
「最初の頃、紫色の仮面の男の相手をしたことがなかったかい?」
医師は、微かに笑った。
値踏みをするように、ワタシのカラダに視線を這わせる。
触られてもいないのに、全身に鳥肌が立つのがわかった。
「あの時から、ずっと、思ってたんだよ。実に美しい手足だって」
全身の血の気が抜け恐怖で頭が真っ白になってくる……




