第十章【4】
頭の方で、カチリと音がした。
そして、人が入ってくる気配があった。
やはりドアは、その方向にあるようだった。
白衣を着た一目見て医師とわかる男性が一人だけ入ってきた。
「やっと目が覚めたんだね。ずいぶんと、暴れていたね」
メガネを掛けた中年の白衣の男は、静かな口調でそういった。
どうやら、この部屋にも、監視カメラが付いているようだった。
この医師は、さきほどの私の不審な挙動を確認しにきたに違いなかった。
『あの……』
ワタシは、この医師に言葉をかけようとした。
しかし、声を出そうとした瞬間、喉に激痛が走った。
思わず顔をしかめる。
「ああ、話そうとしちゃだめだよ。まだ多分喉の傷口がふさがってないからね」
医師は、優しげな口調でそういった。
そして、唇に人差し指を当てて「シーッ」っと大げさにゼスチャーしてみせる。
ノド?
ワタシは、医師の言葉を不審げに頭の中で繰り返した。
喉を痛めていた覚えなどなかった。
なのになぜ、病院でまるで重病人のような格好で寝ているのだろう?
「まだ炎症反応があるんだよねぇ。貧血気味だし、微熱もあるし……」
医師は、腕を組んで、「うーん」と、首をかしげた。
「もしかしたら、ちょっと切りすぎたかもだなぁ」
医師は、独りごとのようにそう付け加えたが、ワタシは、この言葉に心地悪さを感じずにはいられなかった。
普通、医師が、患者の前でそのようなことを口走るだろうか……
ワタシは、あらためてこの男を見た。
細いフレームのメガネを掛けた穏やかな表情の男性だ。
白衣を着ていることに違和感はなく、怪しげな様子もない。
恐らく医師なのには、違いなかった。
しかし、何かが引っかかっていた。
何かは表現できないが、瞳に宿っている光が、明らかに医師のそれではないような気がしてならなかった。




