第九章【6】
部下の一人が、さっきまで、ショウが手にしていたサバイバルナイフを男のもとに持ってきた。
瞬く間に男の表情が激昂する。
「この女がどんだけ稼いでるのか、知ってるのか?あー」
男は、もう一度、ショウのお腹を思い切り蹴りあげた。
「グッ……」
ショウの口から、鮮血がふき出す。
「勝手に、幕を引いてんじゃねーよ」
男は、つばを吐き散らかしながら、そう叫んだ。
そして、ガスガスと無慈悲にショウを蹴りまくる。
「もう、止めて……やめて下さいぃ」
ホントに、死んじゃう。
ショウが死んじゃう。
ワタシは、あらんかぎりに、叫んでいた。
「ただの商品に情をかけやがって、バカか!テメー」
男には、ワタシの叫びは、まったく届いていないようだった。
ショウは、うずくまって、怒声と共に飛んでくる蹴りにただ、ひたすら耐えていた。
「それに、こいつだって、好きでやってんだよ。さっきまで、ウエディングドレス着たまま、ヒーヒーいってたじゃねーか」
男は、初めてワタシを見た。
「なぁ?」
ニタニタと笑っていた。
「なぁ?」
さっきよりも大きな声で、そういうと、男は、笑いながら、ショウのお腹を思いっきり蹴りあげる。
「グッ……」
ショウが低く呻いた。
「そ、そうです。だから、だから、もう……」
ワタシは、泣きながら叫んでいた。
「ほらみろ、この女は、そういう女なんだぜ!お前、なにひとりで熱くなってんだよ」
男は、ショウに向き直り、残忍に笑った。
ショウは、男の左足にすがりついた。
「こ、この状況で……こんなことを好きでしているわけないじゃないか!」
ショウは、血を吐きながら、苦しそうに、そういった。
男は、すがりつくショウを払いのける。
続けて、男のつま先が、ショウのお腹を打ちつける。
「お前、どこまで甘ちゃんなんだよ!」
「ゲボッ……」
再び、ショウは、鮮血を吐いた。
血には、吐瀉物が混じっていた。
「やめてくださいぃ……」
ワタシは、泣きじゃくっていた。
男は、本当にショウを殺す気なのかもしれない。
「おい!」
男は、肩で息をしながら、ワタシに向き直った。
男の額には、汗が滲んでいた。
ゼイゼイと肩で息をしている。
男は、ショウに蔑むような一瞥を投げながら、大きく息を吸って、服の乱れを直し始めた。
そして、ゆくりと、ワタシに近づいてくる。
「お前、死にたいのか?」
余りにも、男の表情が冷静だったので、一瞬、何を訊かれたのか、わからなかった。
男は、空を仰ぐような仕草をし、振り返りざま、ショウの背中を蹴りあげる。
「ウゥ……」
ショウは、エビぞり、ゴロゴロと部屋の中央に転がった。
「なあ、お前、今、ここで、殺されたいのか?」
ワタシは、慌てて、首を左右に振った。
「だろ?」
男の口元が歪んで、笑みを作る。
「おい、あのイロオトコの耳にもしっかり聞こえるようにいってやれよ」
「死にたく……ない…です……」
「ああ?声が小さいなぁ」
「死にたくないです!!」
ワタシは、叫んだ。
「おい、聞いたか?
この女も、死にたくないっていってんじゃねーか!」




