第三章
「どうかな?ここの夜景」
ショウは、窓から見える眩いばかりの光の模様を指差した。
ワタシは、しばし言葉を失っていた。
何万もの様々な色の小さな光の粒子がそこかしこで点滅し、まるで、生きているように、たゆたっている。
ワタシ達は、みなとみらいで一番高いビルの高層階のフランスレストランに居た。
「よく、取引先と商談にくるんだよ。ここ、景色も一級だけど、味も格別だよ」
そういって、ショウは、出されてきた前菜を実に手馴れた仕草で口に運んだ。
「このワインもめっちゃ、美味しいですよ」
ワタシは、フルボトルの開けられたばかりのワインを横目で見ながら、ワイングラスをショウの方に傾ける。
「キーン」
重なったグラスから、小気味良い音が響く。
「ほら、見てごらん?月が綺麗だよ」
そういってショウは、窓の外の一角を指差した。
月が!
月が、私たちの視線の真横に見えていた。
見上げなければ見られないはずの月が、首を少し横にするだけで目に飛び込んできた。
「わぁ~」
まるで、雲の上にテーブルがあるようだ。
そう思うと、ふわふわと、お尻がむず痒くなってくる。
「なんだか、雲の中に座っているみたいデス!お尻がムズムズしちゃいますよ」
ワタシがそういうと、ショウは、少し目を細め、飛びっきりの笑顔を返してきた。
ワタシは、ショウの笑顔を凝視できずに、思わず視線を泳がせてしまった。
この笑顔は、ヤバイ。
本当にヤバイ。
もうどうにでもしてって、感じだ。
料理も、サイコーに美味しかった。
ショウのようなイケメンを前にしているので、当然といえば当然だけど、でも、それをさっぴいても、例えば、パパと二人きりで来たとしても、恐らく、素直に美味しいと感じるだろう。
私の中では、これは、最高級の賛辞にあたる!
「こんなとこに、何度も食べにこられるなんて、ホント、ショウさんが羨ましいです。」
ワタシは、ため息混じりに、最後のお皿ですと出された小さな可愛いケーキを頬張りながらいった。
「そんなことないよ。どんな美味しい料理でも、例えば、お母さんの作ってくれた料理には、かなわないんじゃないかな?」
「ショウさんのお母さんだったら、きっと、凄く料理上手いんでしょうねぇ~」
ワタシは、ここで言葉を区切って、おっきなため息をついて続けた。
「ウチのママなんて、料理が凄くまずくて、レパートリーも少なくて、ホント、嫌になってきますよ。デパ地下の惣菜や、コンビニ弁当の方が、どれだけ美味しいか……」
「へえ~そうなんだ。んで、君は、料理出来るの?つうか、どんな料理が得意なのかな?」
ショウは、そういって、興味深そうに私を覗き込んだ。
「ごめんなさい……なんか、料理、あまり得意じゃないんですよ。ほら、だって、ママがダメだから、教えてもらったりも出来ないし……」
ママが料理下手なおかげで、ワタシは、今、凄く恥ずかしい思いをしている。
ママなんて大嫌いだ。
「でも、男の子って、手料理には、めっぽう弱いから、なにかコレダ!つうのを作れるようになったほうがいいよ。」
「そうですよね……ワタシ、もう少し、料理の上手なヒトがママだったらよかったのにぃ」
「なんなら、僕が教えてあげようか?こうみえても、自炊歴、結構長いんだよ。」
うわ……このヒト、もしかして、スーパーマンなのかしら?
「よろしく、お願いします~」
ワタシは、ぺこりと頭を下げて、そして、ちょっと舌を出した。
ショウは、そんな私を微笑を浮かべながら見ていた……
出来の悪い妹を見るような眼だ。
ん?
妹だったら、えっちできないじゃん。
妹じゃ、ダメじゃん……




