第八章【10】
もう、ずいぶんと、太陽を見ていない。
鶴は、すでに、60羽を越えていた。
日の光なんて、いままで、気に留めたことは、なかった。
むしろ、眩しいやら、暑いやら、ネガティブなイメージしかなかった。
でも、こうして、モグラのように窓のない地下のようなところで生活していると、その眩しい光に、心底、身体をさらしてみたくなる。
眩しすぎる太陽を浴びて、その暑さを呪いながら、木漏れ日の中に退散する。
隣には、ショウがいて、私の呪いの言葉を笑いながら聞いている。
ワタシは、木漏れ日の心地よい、そして、一番、景色の良い場所を探し出し、レジャーマットを敷いて、ショウを招く。
そして、じゃじゃ~んと、お弁当を取り出すのだ。
前日、夜遅くまで、ショウに教えてもらいながら作ったお弁当だ。
「ほら、この玉子焼き、かなり焦げてるけど、きっと美味しいはずだよ」
って、ワタシは、笑いながら、嫌がるショウの口元に、お箸を近づける。
「ん~たしかに、見た目は、悪いけど、けっこうイケるよ!うん。とても、美味しい!!」
ショウは、もぐもぐと口を動かしながら、そういってくれる。
「なにいってるのよ。それは、ショウが味付けしたんでしょう?ワタシは、焼いただけだって!」
ワタシは、ぷくっとほっぺたを膨らませ、ちょっとすねてみせる。
「もう、そんな顔するなよぉ」
ショウは、そう言って、私の頭をナデナデする……
ああ……なんと、幸せなんだろうと思う。
こんなこと、本当にあったら、どれほど、幸福だろう……
ショウを思うとき、思い浮かぶ景色は、いつも、素朴なものだった。
高級なレストランの豪勢な食事や、
贅沢なホテルや、
広くて趣味の良い部屋、
それらの景色になぜだか、ショウは、馴染まなかった。
小さな台所で、二人で作った食事や、
緑の綺麗な場所でのピクニック、
狭くて質素な部屋。
ワタシの思い浮かべるのは、いつも、そんな景色の中でのショウだった……
ワタシのパパとママは、二人で散歩するのが好きだった。
日曜日の昼下がりなどは、いつも、近くの公園まで、二人で出かけていた。
ワタシは、高校1年の時に、偶然、買い物の帰り道に道路から、その公園を歩く、二人を見たことがあった。
二人は、仲良さそうに、手を繋いで、公園内の池にそって、ゆっくりと歩いていた。
ママが笑いながら、パパに話しかけ、パパが何か答えると、ママは、パパの手を握ったまま、勢いよくぶんぶんと振って遊んでいた。
二人は、本当に、仲よさそうな、付き合って日の浅い恋人のように見えた。
初々しさで、キラキラと輝いていた。
ワタシは、その日の夕食の時に、2人を見かけたことをいった。
そして、いい年して、手を握ったりするのは、かっこ悪いからやめてと、なじった。
でも、多分、本当は、羨ましかったのだろうと思う。
あまりにも、絵に描いたような幸せそうな情景に、ワタシは、きっと嫉妬していたんだ。
そうだ、結局、そういうことなんだ。
好きな人と、一緒にいるというのは、ただ、それだけで、とても、幸福なんだ。
田舎のベッドタウンでも、
小さな家でも、
中古の車でも、
狭いお風呂でも、
愛する人といるだけで、それだけで、こんなにも、幸せなんだ………
涙が、滲んできた。
ベッドに、顔をうずめながら、ワタシは、声を殺して、泣いていた。




