第八章【1】
ガチャガチャとドアノブが廻されている。
ワタシは、その感じから、なんとなく、あの日本語の話せない中年女性だと目星をつける。
ドアが開く。
やはり、あの女性だった。
でも、今回は、いつもと違い、大きな箱型のバックを持っている。
ふうぅと一息つき、女性は、その重そうなバックを床に置いた。
「イロオトコとの感動のご対面は、どうだった?」
言葉の後から下品な笑い声が続く。
あの嫌な男が、女性の後ろに立ってニヤニヤとこちらを見ていた。
ワタシは、無言で、睨みつけた。
「今回から、おまえには、スタイリストがつくことになったから」
女性は、黙々と、バックを開け、マニキュアやら、スプレー缶やらをテーブルの上に並べている。
「え?」
ワタシは、女性と男を交互に見ながらきょとんとした。
「スタイリストといっても、このおばちゃんだけどな」
そういって、笑う。
どことなく、しゃくにさわる笑い方だった。
「でも、このおばちゃんは、凄いぞ。北京の有名どころの美容院でバリバリ働いてたヒトだからな」
この化粧道具は、自前のものなのだろうか?
やけに使い古されているが、でも、しっかり手入れされているようだった。
「まあ、今は、ただの不法入国者だけどな」
また、嫌な笑い方をして、男は、女性に向き直った。
「ワンさんだ。ほら、改めて、あいさつしな」
そういって、女性の肩を叩いて、ワタシを指差す。
「ワンデス。ワタスニホンゴデキマスェン」
早口に、そう言って、ぺこりと頭を下げる。
「あと、今回から、ちょっと、あつかいが変わるから、そのつもりでな」
男は、そういって、足早にドアから、出て行った。




