第七章【1】
ドアの前で、誰かが立っている気配がした。
ショウだ!
ワタシは、反射的に、なぜだか、そう思った。
「コン…コン」
そして、ゆっくりとドアをノックする音。
ワタシの世話係りの女性なら、ちょっと、乱暴に、ガチャガチャとドアを開けて勝手に入ってくる。
あのリーダー格の男だって、そうだった。
こうして、外からドアをノックされるのは、初めてのことだ。
心臓が、ドキドキと大きな音をたてている。
「コン…コン」
同じタイミングで、再び、ノックする音。
「はい」
ワタシは、うわずった声で、そう返事した。
「カチャ」
ドアのロックが外れる音だ。
ドアが少しずつ開いてゆく。
やっぱり……
現れたのは、ショウだった。
「ショウ?」
ワタシは、恐る恐る、分かりきっていることを尋ねていた。
「うん……」
下向き加減に、ショウが、答える。
ショウの声だ!
ショウは、振り返り、誰かと2,3会話を交わし、自ら、ドアを閉めた。
部屋は、すぐにロックされ、そして、足音がゆっくりと遠ざかってゆく。
ショウは、素早く部屋の中を見回し、監視カメラを見つけると、背を伸ばして、そのコネクターを引き抜いた。
そして、背負っていた小さなバックパックをテーブルの横に置いて、ベッドで上半身だけ起きているワタシに向き直った。
「げんき……だったかい?」
「………」
ワタシは、無言でショウを見つめていた。
なにか、いったら、涙が出そうで怖かった。
あらゆる感情が、溢れ出て、抑えられなくなり、大声で、泣いてしまいそうだった。
「げんきな……わけないよね……」
視線を下に落とし、ショウは、力なくいった。
「どうして……」
ワタシは、ゆっくりと、続けた。
「どうして、ワタシは、こんな目にあってるの?」
何十回も、何百回も、頭の中でぐるぐると巡っていた言葉だった。
そして、その言葉をいい終えると、やっぱり涙が溢れてきた。
「どうして?」
下を向いたまま、ショウは、私の言葉を繰り返して、いった。
そして、ゆっくりと、ワタシに視線を向ける。
「どうして、エンジョコウサイなんて、してたんだい?」
ショウの口調は、決して非難めいてはいなかった。
純粋に、その答えを求めていた。
意外な言葉だった。
どうして?
どうしてだろう?
なぜ、ワタシは、エンジョコウサイをしていたのだろう……
ワタシは、混乱した。
どうして……ワタシは……出逢い系なんて、してたんだろう………
長い間、ワタシは、なにも答えられずにいた。
沈黙を破ったのは、ショウだった。
「きっかけなんて、なかったんだよ」
ショウは、真剣な眼差しで続けた。
「ちょっと、スリルが味わえて、気持ちよくなれて、そして、おまけにお金ももらえる……」
それは、ワタシに対する答えなのだろうか?
それとも、ショウ自身のこと?
「始めは、こんなこと、思いもよらなかったんだよ。
……本当に、なんとなくだったんだ。」
ショウは、ゆっくりと、話し始めた。
「言われるがままに、指定された女の子と会って、食事して、ホテルでセックスして……」
ワタシは、いつのまにか、泣きやんでいた。
じっと、ショウの話を聞く。
「そして、ころあいをみて、今の仕事よりも、もっと稼げる仕事があるって紹介するだけだった……」
「……」
「ここの連中は、賢くてね。
こんな、非合法なとんでもない組織だなんて分かったのは、もう、どっぷりと足が浸かって抜けるに抜けられない状態となってからだったんだ」
ショウは、元気なく笑った。
再び、長い沈黙が訪れた。
「どうして?」
沈黙を破ったのは、今度も、ショウだった。
ショウは、改めてワタシに向き直り、そして、真剣に訊いてきた。
「どうして、あの時、帰ってくれなかったんだい?
ママには、一度、帰ってこいっていわれていたんだろう?」
「え?」
ワタシは、その時の光景をありありと思い浮かべていた。
ショウは………
なんだか、とても、悲しそうだった。
ワタシは、それを、ママとの会話を聞かれていたためだと思っていた。
でも、ショウの憂いは、もっと深いものだったんだ……
ワタシが、あの時、帰るといったら、こんなことには、ならなかったのだろうか?
みたびの長い沈黙。




